17幕 井上瑠夏
03
母親にも強く説得され、瑠夏は重い腰を上げて事務所へ向かう。
出来るだけ他のメンバーに会わないように、時間を配慮してもらった。

事務所の一室
テーブルを挟んで、マネージャーの山下と向かい合って座る。

山下「何があったんだ?」

瑠夏「・・・・・・」

瑠夏はうつむいたまま黙っている。

山下「・・・黙ってたら分からないだろ?」

瑠夏「・・・・・・」

山下(全く、頑固なヤツだな・・・こうなったら根比べだ)

山下は腕を組み瑠夏を見据える。

5分・・・10分・・・
時間だけが刻々と過ぎていく。

山下「・・・はぁ・・・」

山下のほうが折れ、大きなため息をついた。

山下「これから公演や握手会、ライブイベントもあるが・・・予定が付かないんだ」

瑠夏「・・・・・・」

山下「このままの状態を続けるのなら、休業するか、活動辞退にするしか無くなる」

びくっ

"活動辞退"という言葉を聞いて瑠夏が反応する。

山下「何も話してくれないようなら、こちらは何も出来ない。然るべき選択を取らなくてはならない」

瑠夏「・・・・・・」
瑠夏「・・・・・・ごめんなさい」

今まで真剣にアイドルを目指し、自分を受け入れてくれたSKE48に全てを捧げるため熊本から出てきた。
あんなことの為に夢を諦めるのは悔しい。

そんな思いから突然涙を流し、消え入りそうな声で呟いた。

山下「・・・で、どうしたんだ?」

瑠夏「ごめんなさい・・・」

山下「ふぅ・・・何があったか分からないが、話は聞くから」

瑠夏「・・・私、アイドル失格です・・・」

山下「・・・?何のことだ?」

瑠夏「私、アイドルとしてやってはいけないことをしてしまいました・・・。もう・・・もうファンの人の前に立てません・・・」

泣き声で思いを語った。

山下(なるほど・・・大体分かった)

直接何があったのかは言っていないが、裏家業の経験豊富な山下は大体の察しがついた。

山下「・・・それは、井上が望んでしたことなのか?」

瑠夏は小さく首を横に振る。

山下(レイプされたか・・・心の傷も深そうだ)

山下がスッと立ち上がり、瑠夏の頭を優しく撫でる。

山下「そっか・・・辛かったな・・・」

瑠夏は、山下が自分の辛さを察してくれたことで更に大粒の涙を流しはじめてしまった。

瑠夏(暖かい・・・)

山下は、瑠夏が泣き止むまで無言で頭を撫で続ける。

山下(しかし、あの井上がこんなことになってたなんて思ってもいなかったな・・・)

しばらくして瑠夏が泣き止んでいく。

瑠夏「ぐす・・・」

山下「・・・落ち着いたか?」

こくっ

山下「・・・辛かったら話さなくていいんだぞ」

山下が瑠夏の元を離れ席に戻る。

瑠夏「・・・・・・」

瑠夏は自分の身に起こったことを赤裸々に話しはじめた。
自宅で襲われたこと。
石黒友月のこと。
そして、今回話したことは家族には秘密にして欲しいということ。

それを聞いた山下は頭を悩ませた。

山下(石黒が絡んでるのか・・・また厄介な話だな)

石黒友月の件は自分も絡んでいるため、状況は良く知っている。

井上「こんな・・・こんな汚れた私なんて、ファンの人の前に出られません・・・」

瑠夏はまた泣きそうになる。

瑠夏「もう私のことなんて好きになってくれるファンなんて・・・」

どんどん思考がネガティブになってくる。

山下「そうかな。そのままの井上でも付いてきてくれるファンは大勢いると思うけどな」

瑠夏「・・・本当ですか?」

山下(お世辞でも何でもないんだがなあ・・・)

山下(俺が開催する撮影会の主役にすれば、山のようにオタクが集まってくると思うが)

山下(まあ、それは"アイドル"井上瑠夏に集まってくるわけじゃないけどな・・・)

瑠夏「ふふ・・・優しいんですね」

瑠夏が山下に向かって微笑む。
真っ直ぐな眼差しに、思わずドキッとしてしまった。

山下(なんて純粋な子なんだよ・・・)

山下(俺のことを信用しきってるみたいだし・・・試してみるか)

テーブル越しに瑠夏の頬に手を沿え、身を乗り出して顔を近付けていく。

チュッ・・・

唇に触れるだけの軽いキスを交わす。

瑠夏(あ・・・初めてキス・・・されちゃった・・・)

瑠夏は目を見開いたまま固まっている。

メンバー同士でふざけてキスすることはあったが、男とのキスはこれが初めての経験だった。

瑠夏が頬を赤らめている様子を見て確信した。

山下(これは、いけるな・・・)

山下「・・・まだ時間は大丈夫か?」

こくっ

瑠夏がうなずくのを見て、心の中で笑みを浮かべた。

山下「君は汚れていないってことを証明してあげるよ」

心の声を読まれないよう注意しながら、瑠夏の服に手をかけていった。

ブラック・キャット ( 2019/05/27(月) 17:40 )