「せんぱーい！！」
ある日の昼休み、購買でお昼ご飯を買って屋上に向かっていると、後ろから声が聞こえる。

「んっ？」和也は後ろを振り返ると、美穂がこっちに向かって走ってくる。
和也「美穂、どうしたの？」
美穂「やっと見つけたぁ〜！何度も連絡したんですよ？」
和也「連絡？」
和也はポケットからスマホを取り出し確認した。
すると、スマホの画面に着信3件、メッセージ5件、美穂から連絡が来ていた。

和也「ごめん。マナーモードで気づかなかった。それでどうしたの？」
美穂「あっ！そうだ！先輩、陽菜の誕生日覚えてますよね？」
和也「うん。7月23日だよね」
美穂「そうです！お祝いは決めましたか？」
和也「それがまだなんだよね。ずっと考えてるんだけど…」
美穂「やっぱり！そんな先輩にいい報告があります！」
和也「いい報告？？」
美穂「陽菜に先輩にしてほしいこと聞いたんです！」
美穂は手招きして和也は美穂の口元に耳を近づけた。
「えぇー！！！」それは和也の予想を遥かに超える内容だった。

そして、陽菜の誕生日当日。
陽菜は和也の家に向かっていた。
（誕生日に和くんと一緒に居れるなんて嬉しいな〜！）
7月の蒸し暑さが気にならないぐらい陽菜の気分は上がっていた。

『ピンポーン』和也の家に着いてインターホンを押す。
『……。』いつもはすぐに出て来てくれる和也が全く出てくる気配がない。
陽菜「あれ？和くんどうしちゃったのかな？」
もう一度インターホンを押そうとすると、鞄の中に入れてあったスマホが鳴った。

「鍵開いてるから入ってきて！」
和也からメッセージが届いた。
陽菜「んんっ？？」
陽菜の頭の中は？でいっぱいだった。
少し考え込んだが考えても全くわからなかったので、とりあえず和也の指示通り家の中に入った。

陽菜「おじゃましまーす。和くん？」
恐る恐るリビングのドアを開けると、リビングのソファに白と黒の模様のもふもふとした大きな生き物がいる。

陽菜「えっ…パンダ？和くんのお家にパンダがいる！！！」
後ろ姿だけでもパンダとわかるシルエットに陽菜は興奮した。

「いや、パンダと言うより俺なんだけど…」
パンダは立ち上がり振り返った。
陽菜「か、和くん…？」
そこにはパンダの着ぐるみを着て、目の周りも黒く塗られた和也の姿が。

和也「ごめんね。流石にこの格好で玄関を開ける勇気がなかった」
陽菜「えっ？えっ？和くんがパンダになってる！！もしかして、和くんの本当の正体ってパンダだったの！？」
陽菜は未だに思考が追いついていない。

和也「あははっ、パンダの格好をした俺なんだけどね」
陽菜「パンダの格好？なんで？」
和也「あれ？陽菜が美穂に言ったんだよね？」
陽菜「美穂……。あっ！！」
陽菜は何かを思い出した。それは数日前の出来事だった。


美穂「ねぇ、陽菜。もうすぐ誕生日だけど欲しいものかお願い事とかある？」
陽菜「うーん、パンダ！！」
美穂「それは無理だから！他には？パンダ以外で」
陽菜「うーん、パンダ！！の格好をした和くんと誕生日に一緒に居たいな…」
美穂「パンダの格好をした先輩……。ぷぷっ！あははっ！」
想像しただけで大爆笑をする美穂。

陽菜「あーっ！笑った！絶対可愛いのに」
陽菜は頬を膨らませて少し怒った表情をする。
美穂「ごめんごめん！そのお願い事叶うといいね！」

というやりとりを美穂としていた。
和也「それを美穂から聞いたんだ。だから、陽菜が来る前に美穂が来て着ぐるみと目の周りを塗ってもらったんだ」
陽菜「ふふっ、和くーん！！」
陽菜は嬉しそうに和也に駆け寄り抱きついた。

和也「うわぁ！！」
あまりの勢いに和也は体勢を崩してソファに倒れ込んだ。
陽菜「えへへっ、和くん可愛いです！」
和也の頬に自分の頬をくっつけて喜んでいる。

和也「陽菜、誕生日おめでとう」
陽菜「ありがとうございます！」
陽菜は顔を上げて目を細めて幸せそうな表情をする。
そして、よほど嬉しかったのか顔を近づけてキスをした。

陽菜「あっ、ごめんなさい！！」
急に我に返った陽菜が慌てる様に和也から離れた。
和也「色々忙しい子だね。あっ、そうだ。ケーキあるんだ」
陽菜「えっ、ケーキ？？」
和也は冷蔵庫から箱を取り出した。

和也「ネット通販でいいのがあったんだよね！」
ダイニングテーブルに箱を置いて蓋を開ける。
すると、そこには立体のパンダのケーキが姿を現した。
陽菜「えっ！！すごく可愛いです！」
陽菜は両手を口に当てて、大きく目を見開いた。

和也「でしょ！調べてたあったんだ！」
陽菜「ぐずん…嬉しいです〜」
陽菜は急に泣き出して和也に抱きついた。
和也「ふふっ、今日の陽菜は本当に感情が忙しいね」
和也は泣きじゃくる陽菜の頭を優しく撫でた。

その後、陽菜の気が済むまでパンダの格好を続けた和也。
陽菜は今までで1番の誕生日だと喜んだのだった。

そして、和也のパンダ化した写真が美穂の手によって、アイドル部に流出したのであった。