日替坂46
#1 櫻坂46
#03 僕にしかできないこと
「…下くん、岩下くん?」

自分に求められることとは何か、考えているうちに、面談の相手が入室していたらしい。

「はいっ!すいません!!」
慌てて跳ぶように立ち上がった僕の前に座っていたのは

「秋元康…さん?」

作詞家であり、古くはおニャン子クラブ、今なら48グループや坂道グループといったアイドルグループのプロデューサーとしても名高い男だった。

「いかにも。そして、僕が君をここに引っ張ってきた張本人。」

「秋元さんが?」

「そう、内定者のリストを見ていて面白そうだったからね。いきなりのことで驚いただろう?」

「それはもう!僕みたいな普通の人間がなんで?」

「君には特別な才能がある…。


…と言いたいところだが、そうじゃない。君があまりにも普通のだったからね。
バイトと就活ばかりの大学生活、勉強はそれなりのようだが、学問を極めるほどでもない。どうせ色恋沙汰にも消極的だったクチだろう?」

「それは…」
図星である。
一般的な大学生活を薔薇色に例えるなら、僕のそれは灰色あるいは無色といったところだ。
就職活動は頑張ったが、猛烈にやりたい仕事があったわけじゃない。人並みに友人はいるし、恋人だっていなかったわけではないが、深い付き合いかと問われると言葉に詰まる。

「おっしゃる通りですね。」
少し、いやかなり憮然とした態度で答える僕を見て、秋元は笑う。

「気を悪くしたなら謝るよ。君が面白そうだと思ったのは本当。まあ、詳しいことは追々ね。そのうちわかる。」

そう言って話をはぐらかして、
マネージャーとおぼしき実務担当者と入れ替わりで、彼は出ていった。

『狸親父』
それが僕の彼への第一印象だった。(実際、見た目も狸に近い。)


さておき、実務担当者からの話はこんな感じだった。

・仕事やメンバーを覚えてもらうために、マネージャー業務も含めて色んな業務をやること
・欅坂、日向坂両方に関われるようにすること

要は新入社員らしく何でもやれということだ。
聞けば聞くほど、どう考えても『僕にしかできないこと』なんてない気がするのであった。
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豊後水道 ( 2021/05/24(月) 17:40 )