心の苦闘
男が机を叩く不快な音が、狭く薄暗い部屋に響き渡った
もう何回同じことを聞かれたのか分からなくなるぐらいに同じ言葉を男は飽きもせず…まぁこれがこの人の仕事なのだから仕方ないのだが、繰り返し続けた
「お前が殺したんだろ、なぁそうだろ? いい加減に答えてくれよ!」
「だから俺は祖父と祖母を殺してなんかいませんって」
「チッ、また同じ答えか…だがよ、お前以外に殺せる人はハッキリ言って誰もいないんだよ」
取調室という場所で事件の事を聞かれ始めてからもう何分が経ったのだろうか
幾ら聞かれても俺は祖父と祖母を殺していないのだから"犯人だと"答られる訳がない…
「そもそもに俺を犯人だと決めつける物的証拠も出てないんですよね?」
「そうだよ、だからこっちとしては困ってるんだよ…じゃあもういいや、あれだ 殺した事は認めなくてもいいからさ、せめて凶器がどこにあるかだけで良いから答えてくれよ!」
祖父と祖母を殺した事件は祖父の知り合い関係を中心に警察が調べていったのだが、祖父の近辺でのトラブルは一向に上がらず、更に犯行現場からも大した証拠が見つかる事も無かった為に警察の疑惑は完全に俺へとなってしまった訳だ
そりゃあ、第一発見者で、唯一この家の合鍵を持っていて、その上に二人がいなくなればおのずとお金が入ってくるとなりゃ、傍から見れば犯人に見えるのかも知れないが、俺からしてみれば"ふざけるな"と言ったところである
過去に殺人で身内を失った人がどれだけ殺人というものの恐怖を心に思い、どれだけ死というものを怖く感じているかという事をこいつらは知らないのかと…
ふとっ目を閉じると生きていた頃の母の笑顔が浮かび、滴が一つ頬をつたった
つづく