朝の屯所
翌朝、山田が起こしてきて私は起きた。
疲れからかいつもより長く眠ってしまったようだ。
いつものように袴などを着、外へ出る。
井戸で汲んだ冷たい井戸水で顔を洗った。
目が冴え、頭も冴えてくる。
と同時に私は沖田さんに呼ばれていることを思い出した。
廊下を小走りで駆け抜け、沖田さんの部屋の前で息を整える。
「おはようございます」
障子を開けると、沖田さんと山田が向かい合って座っていた。
どことなく緊張感の漂った部屋に私も気を引き締めた。
昨日の件で何か言われるだろう。
沖田さんに指示され、山田の隣に腰を下ろす。
「昨日は災難だったね」
ーー予想通りだ。
笑顔の沖田さんに対し、こわばる私。
山田の顔も見ていられない。
しかし、沖田さんは続けた。
「しかし、奮闘したと聞いている。敵はざっと三十人はいたそうだ。相手に関しては監査の吉田に調べさせているよ」
ーー何が、言いたいんだ。
私は俯いて、眉をひそめた。
「ところで、隊士は見つかりそうかい?」
ーー何故この人は知っているのか。
顔を上げ、沖田さんの顔を見た。
相変わらず彼は微笑を浮かべてこちらを見ている。
私は指を一本立てた。
「一人、見つかりました」
「それは、良かった。じゃあ帰っていいよ」
沖田さんは頷いて私達を帰した。
私達は頭を下げ、廊下へ戻る。
ーー善は急げ、だ。
私は自室へと駆け込んだ。
急いで筆を取り、上質な紙に丁寧に文字を記入していく。
最後に自分の名前、山本彩を書き入れると三つ折りにし、懐に入れた。
外では竹刀の音が響いていた。
沖田さんの稽古は昼であることから、隊士の朝練なのであろう。
そう思い、山田に話すことなく私は広間へと足を進めた。
やはり、広間では剣道の練習が行われていた。
その中から目当ての隊士を探す。
ーー面倒だな。
内心、そう思った私は大きな声で彼女の名前を呼んでみた。
二番隊組長、上西恵。
「上西! ちょっと良いか?」
「ん?」
声を掛けると、上西は立ち上がり私の元へやって来た。
彼女の剣の腕は山田に匹敵するものだ。
山田が暇な時は専ら二人で試合を繰り返している。
隊士らの噂では彼女らはできてるのではないか、などと囃されているが、今はどうでも良い。
「新しく隊士が入ると聞いたら何と答える?」
「育成するまでやなぁ」
上西は広間を顎でしゃくった。
確かに、上西による朝練のおかげでどんどんと剣について上達している。
それに関しては彼女は得意そうだ。
「今日の正午、難波茶屋のお柊にこの手紙を渡して連れてきてくれ」
上西は無言で私から紙を受け取り、歯を見せた。
新たな隊士を見れることが嬉しいのだろう。
喜喜とした表情で彼女は稽古に戻って行った。