第一章 転校
01
目の前に広がる広い校庭に新しそうな校舎。
周りの学生は私にとって聞きなれない方言で喋っている。
「でしょー?」とか「昨日言ったじゃん!」とか。
広大な住宅地の一角に位置するこの高校は進学校らしい。
だから、私はここに転入することになった。


「めっさ緊張する……」


と、私はつぶやいた。
前の学校とは違う関東の雰囲気に飲み込まれているんだろう。
自分らしくいなきゃ、と考え直し襟を正す。
なぜか誇らしい気分になった。

一歩一歩踏み出すたびに足が震える。
緊張なのか、なかなか足が進まない。
次々とお洒落な高校生に追い抜かされて行くのがちょっと悔しくて走り出したくなる。

玄関に着くと、土足のまま校舎に上がることに衝撃を受けた。
リュックに入っている上靴はもう必要ないのかと思うと寂しく思う。
そのまま人の流れから外れて職員室へ。
思ったより遠かった職員室に絶望感を抱き、ノックすると担任と思われる中年男性が出てきた。
顔は中と言ったところか、でも私の好みではないのは確か。


「君が矢倉楓子さんかな?」

「はい、そうや……です」


怒らせないように無難に相槌を打ってやり過ごす。
教室に行くからついて来い、というようなニュアンスのことを言っているが、話が長すぎて聞く気にもなれなかった。
……しかし、見れば見るほどこの教師の評価は下がっていく。
ダサい私服、ボサボサの髪、ここまで聞こえる鼻息の音。
鼻息は鼻が詰まっているのかもしれないが、ほかの二つは是非とも直して欲しいところである。


「まぁ、ついて来て? くしゅん! あぁ、ごめん。花粉症が辛くて」


鼻息については詮索しないでおこう、
でも、女子高生を目の前に花粉症対策もせずに鼻で息をしていたら間違えられるよ、と哀れみの視線を彼に向けて、5階の教室へ向かった。
高校一年生は最上階の5階まで上がらなければいけないのかと思うとこれからが憂鬱になる。


「矢倉さんは1-3ね。じゃあ、呼んだら来て」


一方的に話を進められちゃ困るな。
どうせ教室に入ったら自己紹介をしなきゃいけないんだろう。
とても面倒でやりたくないものだ。

確か、大阪の友達は第一印象を大切に、と言っていたような。
東京と比べて大阪はノリがいいらしい。
落ち着いた雰囲気で周りから目立たないようにするのが良いのかもしれない。
漫才をできるわけでもないしね。

でも、インパクトが大事って言ってる人もいた。
キャッチフレーズが何かを考えて、一発目にそれを発表するのもいいかもしれない。

なにかいい案はないものだろうか。

手に顎を乗せながらそんなことを考えていると、早くも教室の中が騒ぎ始めていた。
この学校は共学と聞いている。
だからだろう、男子がとてもうるさいのは。
それに負けじと女子も特有の盛り上がりを見せている。

私の学校生活は大丈夫かな。
ため息をついて考える、

そんな将来の不安を抱えてることを知らず、担任のあの教師が私を呼んだ。


「じゃ、入ってー」


少し開かれたドアに手を掛ける。
深呼吸してドアを開ける時には盛り上がっていた教室は静かになっていた。

重たいドアを左に動かして、教室内に入る。
すると、男子のちょっとした歓声があがった。
時々、私を賞賛する声が聞こえてくる。

自己紹介をしようと教壇に立った。
ここからは生徒の様子がよく見える。
腕を組む女子、笑顔の男子、騒ぐ女子、私を凝視してくる男子……





「はじめまして。大阪から来ました、矢倉楓子です」


■筆者メッセージ
どうでした?
関西弁が上手く書けてるか不安です…
OZ ( 2013/10/27(日) 21:43 )