オレンジ色の家路
「…大輝の好きな人って誰なの?」
帰宅をするため、2人で夕焼け空の下を歩いている時の事、明音は大輝に問い掛けた。
「明音には関係ないだろ。」
「えー、何で?気になるじゃん。」
「嫌だ、教えない。」
質問に答える気の無い大輝だが、明音は何とか答えを聞こうと問い詰めに出る。
「同い年?」
「教えない。」
「もしかして同じクラス?」
「………教えない。」
「あたしが知ってる人?」
「だから教えないって言ってるだろ。」
執拗に問い詰めてみても、自分の好きな人については一切喋ろうとしない大輝に対して、明音は顔の前で手を合わせて頼み込み出した。
「お願い、教えてよ!」
「嫌だ。」
「ちぇ…あたしの好きな人は教えてあげたのに……」
明音はついには拗ねてしまい、しょんぼりとした表情をして目線を落とす。
だが、そんな明音の表情を見て、言葉を聞いた時大輝の心は動くのだった。
「確かにな…、それは悪かったよ。」
それは大輝が明音の好きな人が自分だったと知ったものの、彼女の思いに応える事の出来なかった事に罪悪感を感じていたからである。
「仕方ないな……特別に教えてやるから、そんな顔しないでくれ。」
「えっ、いいの?」
大輝の教えてやるという言葉に反応して明音はパッと顔を上げた。
「あぁ…、その代わり勝手に他の奴に言っちゃダメだからな。」
「言わないよ、それで誰?」
明音はニヤリとした笑みを浮かべながら答えを待つ。
「彩だよ、同じクラスの山本彩。」
「おぉ!彩ちゃん!?大阪から来た子だよね。」
「そうだよ。」
「そっか彩ちゃんか、どんなところが好きなの?」
大輝が正直に彩の名前を挙げたのを聞いた明音は、さらに質問をする。
「色々と。」
「色々って…、答えになってないし…。けど彩ちゃんはあたしより何倍も可愛いと思うよ、それはあたしは負けちゃうね。」
彩の名前を聞いた事で明音は、自分が振られてしまった事も納得できたようで、小さくため息をもらした。
「でも今日は明音も可愛いって思ったよ。」
「いいよ、そんな事言わなくて。そう言われると付き合ってくれない事が余計に寂しく感じちゃうから……」
そう言いながらも明音の頬は少し赤く染まっていた。
「ごめん……」
「ふふ、大輝はもう少し女の子の気持ちが分かるようにならないとね。」
謝ってきた大輝に明音は一度鼻で笑い、言葉を返した。
「まぁ、あたしは大輝の事を応援してあげるよ、彩ちゃんと付き合えるといいね。」
「……そうだな。」
こうして家路を歩く2人が家に着く頃には辺りの街灯が点々と付き始めていた。
「久しぶりに明音と2人で出掛けられて楽しかった。」
「うん、あたしも凄く楽しかったよ。ありがとね。」
隣同士のそれぞれの自宅の前に着いた2人は、顔を合わせて微笑みあう。
「ねぇ、最後に2人で写真撮ろうよ。」
「分かった。」
写真撮ろうと提案した明音はスマホを取り出してインカメラを起動させ、大輝の近くに寄った。
「はい、チーズ。……、よし、撮れた!」
撮影したツーショット写真を満足そうに確認した明音は保存する。
「それじゃ、また明日な明音。」
「うん、バイバイ!」
手を振りあって別れた2人は共に玄関を開けて自宅へと入っていった。
(あたし…振られちゃったね、でもこの写真はLINEのプロフィール画像に設定しちゃお。)
その夜の事、明音は大輝と家の前で撮った写真をLINEのプロフィール画像に設定してから就寝した。
そして同じ夜、一方で大輝のスマホには意中の人からの朗報が届くのであった。
(彩からLINEだ…、何だろ。)