大輝の答え
「本当に……?」
「あぁ、明音はどんな時も俺の近くで支えてくれたからな。」
「それはあたしも同じだよ、大輝はいつもあたしの側に居てくれたもん。」
大輝からも好きだと言われ、更に体温を上昇させながらも明音は微笑みを見せる。
「明音に好きって言われて改めて気付いたよ、俺にとって明音は大切な存在だって。」
「そ…そんな、嬉しい、すっごく嬉しいよ。」
明音は大輝の言葉に胸が熱くなり、その体は思わずもう一度彼の胸に飛び込もうと前身していた。
(正直に伝えて良かった……)
もうすっかり明音は告白が成功したのだと思い込んでいる。
しかし、大輝の答えには続きがあった。
「いや、でも…、俺は明音と恋人として付き合う事は出来ない……、ごめん。」
「……えっ?何で?」
続けられた言葉を聞いて、大輝の胸へと向かっていた明音の足はピタッと止まる。
「……ごめん。」
「どうして?あたしの事好きなんでしょ?」
自分の事を好きとは言ったが交際は断るという大輝に、明音は納得が出来ない様子で詰め寄って行く。
「明音の事は幼馴染みとして好き…なんだ。」
「…それは幼馴染みとは付き合えないって事?大丈夫だよ、別にお互い気を使わずに今まで通りな感じで良いってあたしは思ってる!」
「…………。」
まさか大輝は幼馴染みの自分と付き合うのは避けようとしているのではないか、そう思った明音は何とか説得しようと早口に言葉を並べたが、それに対する大輝の反応は無言で首を横に振るだけだった。
「別にそういう訳では無いんだ、ただ俺には今、好きな人がいるんだ……。」
明音の気持ちに応える事が出来ない理由を、大輝は小声で述べる。
やはり大輝の心は先日初めて胸の奥をときめかされた彩に向いており、長い年月を共にしてきた幼馴染みからの告白を受けても、大輝の気持ちを動かす事は出来なかったようだ。
(嘘だ…、大輝に好きな人が出来るなんて……)
明音は大輝に好きな人が出来たという事実に驚くと同時に、自分の思いが届かなかった事に落胆する。
「なら、好きだなんて言わないでよっ!馬鹿!」
「…すまない、でも明音も大事な人で…………。」
「うるさい!」
つい先程まで胸を熱くさせた大輝の言葉も、付き合う事は出来ないと知った今の明音は聞きたく無かった。
「大輝の馬鹿!」
馬鹿と強い口調で言い放った明音は、大輝に背を向ける。
(振られちゃったな、あたしは大輝と付き合えないんだ……)
意を決して告白をしたものの、思い通りに行かなかった事から目に悔し涙を滲ませる明音。
大輝に背を向けたのは涙を隠すためだ。
(あたしはちゃんと告白したんだ、泣いちゃダメ……)
その時大輝はそっと明音の背中に近付いて声をかけた。
「明音、本当にごめんな…、せっかく正直に言ってくれたのに。」
「ううん、大丈夫だよ。それにしても大輝に好きな人が出来たなんてね、悔しいけど応援してあげる。」
明音は一度鼻を啜ってから振り返って、申し訳なさそうな顔をしている大輝に笑顔をみせる。
(明音が泣いてる…。)
明音の笑顔を見た大輝は、目が赤くなっている事から無理して作った笑顔なのだろうと簡単に察する事が出来たが、これ以上に彼女の心に傷を与えないためにも、そっとしておく事にした。
そしてその後の2人はもう少しだけ公園の中を歩き、再度懐かしさに浸っていた。
「大輝、そろそろ帰ろ?」
「あぁそうだな、帰ろう。」
2人が公園を出る頃には、先ほどから空に広がりを見せていた夕焼けが、完全に空を包みこんでおり、空は一面オレンジ色に染まっていた。