第三章 幼馴染みの関係
明音の行きたい場所

「なんとか間に合ったな。」

「はぁ...、そうだね。」

大輝と明音は必死に走ったのが報われ、無事映画の上映開始時刻のPM14時の約5分前に映画館に到着する事が出来た。

「こうしちゃ居られないな、早く入らないと。」

「うん、行こう。」

映画館に到着した2人はロビーに入ると、すぐに奥のスクリーンがある大部屋へと足を進めた。

「席はここみたいだ。」

「当日券にしては見やすいところだね、良かった。」

2人がチケットに指定された番号の隣同士の座席に座ると、まるで2人の到着を待っていたかのように上映開始のブザーが鳴って辺りを照らす照明も落ちて、明音が見たいと言った作品のタイトルがスクリーンに映し出され、映画は始まっていく。

「……グスッ...(切ない…)」

上映が始まってからは普通に作品の物語は進んで行き、クライマックスのシーンになると明音は思わず涙ぐんでおり、ハンカチを取り出して溢れる涙を拭っていた。

(あぁ、終わっちゃった……)

そのまま映画の上映は終了となり、再び照明が点くと辺りは明るくなって行き、それに合わせて明音は隣に座る大輝に顔を向ける。

「大輝!面白かったね。」

「Zzz……え!?あ...終わったのか。」

大輝は映画の物語の途中で眠りに落ちてしまっていたようで、明音に話し掛けられて目を覚ました。

「えー寝てたの?最低。」

「ごめん、暗いからつい眠くなってしまったんだ。」

寝ていた事に唇を尖らせる明音の目を見た大輝は、彼女の目が少し赤い事に気が付く。

「目が赤いけど、泣いてたのか?」

「ふん、途中で寝ちゃった人には分かる訳ないよ。」

こうして映画を見終えた2人は退館をし、映画館の外へと出て行くのであった。


「もう帰るか?明音。」

「……うん、帰ろう。」

時刻はPM16時頃、映画館を出た大輝と明音はショッピングモールからも出ており、帰りのバスが来るバス停の方へと足を進めていた。

「……………………」

並んで歩く2人は行きの時とは違って、会話の1つもしていない。

(せっかく2人切りで出掛ける事が出来たのに意外とタイミングって無いなぁ……難しいんだね、こういうのって。)

これまで積極的に大輝に話し掛けていた明音は、今はただ黙って大輝の横を歩きながら、大輝と一緒に遊びに来た目的を果たすタイミングがなかなか見つからないことを、1人心の中で嘆いていた。

「明音、今日は春休みの宿題のお礼に来たのに俺はまだ一度も明音に奢ってないけど……いいのか?」

一方で大輝はただ春休みの宿題のお礼をするために明音と一緒の時間を過ごしたが、未だに一銭も明音のために使っていない事に疑問抱いており、明音に問いかける。

「あ...あはは!忘れてた、また考えておくよ。」

質問に対して明音は不自然に笑い声を上げて答えた。

「忘れてたって……、今まで明音はそんな事あったっけ?」

「うーん、別に良いでしょ?大輝はいつも大してお金持ってないんだから。」

「まぁそうだけど……、あ!バス来てる、急ぐぞ明音!」

会話の途中に大輝は目的のバス停の前にバスが到着しているのに気付き、人の乗降が行なわれているのを目にした途端に走り出し、明音もそれに続いた。

「何も急に走らなくても良いじゃん、次のバスもすぐに来るんだから。」

「せっかく来てるなら、乗らなきゃもったいないだろ。」

そしてバスに乗り込んだ2人は、この街の方の地域から普段過ごしている地域へとバスに揺られて帰ってきたのであった。


2人が帰宅をするには、後はバス停からの家路を歩くだけであり、大輝と明音は引き続き並んで歩き出す。

(どうしよう、このままでは大輝に告白しないまま家に着いちゃうよ…)

希美杉学園周辺の住宅地を歩く最中、明音は大輝と2人切りでの外出が終わる時間が近付いているという状況に焦り始めていた。

するとそんな時明音は今歩いている道が、とある場所に近い事に気が付く。

「大輝、お家に帰る前に寄りたい所があるの。」

「え、どこ?」

「公園。」

「公園ってあそこの公園?もう何年も行ってないな、今更どうして?」

明音が急に公園に行きたいと言ってきた事に対して大輝は理由を聞こうとしたが、明音は答えずに自分の顔の前で手を合わせてお願いをしている。

「いいから行きたいの……。」

「わ、分かったよ。」

明らかに様子がおかしい明音に大輝は戸惑いながらも、彼女の言う事を聞いてあげることにして帰路を少し外れた所にある公園へと進路を変更した。

…………………………

「懐かしいな。本当に久しぶりに来たけど、明音はどうしてここに来たかったんだ?」

「別に...なんとなく来てみたくなっただけ。」

偶然にもこの公園には先客はおらず、公園を歩いているのは大輝と明音だけである。

(ここはあたしにとっては大輝との大切な思い出の場所……、ここでならちゃんと言えると思う、大輝に好きって。)

そう、この公園は幼い頃の大輝と明音が良く遊びに来ていた公園であり、丸1日を2人切りで過ごしても今ひとつ進展を得る事が出来なかった明音は、最後の最後に思い出の場所で大輝に思いを告げる事を決めたようだ。

(あとはタイミング……、物凄くドキドキしてきちゃった。)

既に明音の心臓は破裂してしまうのではないかと思う位に高鳴っているのであった。


■筆者メッセージ

約1週間ぶりの更新です。

ここら辺は以前書いてた物とは色々と変わっております。
バステト ( 2015/12/20(日) 02:39 )