第三章 幼馴染みの関係
ショッピングモールの映画館

「映画のお金出してくれるの?ありがとぉ!」

「まだ何も言ってないだろ、まぁでも春休みの宿題の借りということで。」

「わーい、やった!」

富岡家を後にした2人は最寄りのバス停からバスに乗車して、駅や彩が練習に使うスタジオや、彩のバイト先のファーストフード店がある街の方の地域へと移動している。

「着いた!降りようよ。」

「あぁ。」

目的地に到着したバスから下車した2人は、その街の方の地域にある映画館も入っている大型のショッピングモールに向かい、足を進めるのであった。

この大型ショッピングモールは駅に近いという立地条件から、希美杉学園の生徒の平日の放課後や休日の遊び場としては大定番となっている。


映画館のある大型ショッピングモールを目指して2人で歩いている途中、明音は隣にいる大輝の事を考えていた。

(朝大輝の家に行ってから今までの間、何となく時間が過ぎちゃってるけど、あたしは今日大輝に気持ちを伝えるんだ……、そんなチャンスあるかな…、いや、あたしから行かないと!)

元々自分が大輝に近付くために遊びに誘った明音は、隣を歩く彼を見て目的を再認識する。

「明音と2人でこっちに来るのは久しぶりだな。」

「うん…そうだね。」

大輝に話しかけられた明音は言葉を返しつつ、さり気なく大輝の方へ体を寄せてみた。

「明音?何かこっちに寄ってきてるけど……」

「あ…ごめんね……、(もう、こうしちゃえ!)」

執拗に近付いてくる明音に気付いた大輝は逆に明音から離れてしまい、試みた事が失敗に終わった明音はもっと思い切った行動に出た。

「え…どうしたんだよ?」

「別に〜、昔は良くこうしてたから!」

明音の突然の行動に思わず動揺している大輝と、照れ隠しのためか悪戯な笑みを浮かべる明音。

なんと明音は並んで歩く大輝の腕を掴んだのだ。

「まったく、誰かに見られたらどうするんだ。」

「いいでしょ、いつも通り幼馴染みだって言えば。(少しはあたしのこと大輝に意識させなくちゃ!)」

「いや、どう考えてもこんな事してたら幼馴染みじゃ済まないだろ。」

大輝は何度か明音を引き離そうとしたが、明音は頑なにそれを拒否し、結局明音はショッピングモールに着くまで大輝の腕を離すことは無かった。

(…誰かに見られたら明日はクラス中の話題になるだろうな、それに彩も良くこの辺りには来るって言ってたっけ……)

地面に映る2人の影は完全にカップルであり、もし彩に見られていたらと嫌な予感がしてきた大輝だが、残念ながらその嫌な予感は的中していたのであった。


(あれ?あれは大輝くん……幼馴染み言うて、ちゅりちゃんと付きおうとるんやな。)

そう、大輝の意中の人が偶然にもその光景を目に焼き付けていたのだ。


そして大輝と明音はショッピングモールに到着すると、真っ先に目的の映画館に向かった。


「明音が見たいのってどれ?」

「えっとね……、あった!これ。」

映画館の外壁に並ぶ宣伝用のポスターの前で大輝に尋ねられた明音が指をさしたのは、恋愛物の作品だった。

(私は先生が好き!教師と生徒の禁断のラブストーリー……、まぁ明音が見たいんだからいいか…)

「分かった、チケットを買いに行こう。」

明音が見たいという映画に、正直大輝は全く関心が無かったが文句を言う事は無く、明音と一緒に映画館のロビーへと入り、チケットを購入するカウンターへと足を進めた。

「これを2人分で。」

「14時からですね、かしこまりました。ちなみにお2人はカップルでいらっしゃいますか?」

「えっ?」

大輝はチケットを買うための映画館スタッフとのやり取りの最後にスタッフが尋ねてきた事に、一度耳を疑った。

どうやらこの映画館では週末にカップルで来た客の料金を割引するサービスがあるようだ。

「そういう事か…、違……」

「はい!カップルです!」

正直に答えようとした大輝であったが、映画館のスタッフと大輝のやり取りを黙って聞いていた明音が突然大輝の腕を取りながら、口を挟んだ。

「明音、嘘はダメだろ。」

「安くなったんだから良いでしょ?」

明音の行動と発言によって、映画館のスタッフは完全に大輝と明音がカップルだと信じ込んでしまい、結果的に2人は映画のチケットをカップル割引の効いた価格で購入したのであった。


「まぁそれより明音、チケット代はいいのか?」

「うん、割引になったからね!」

カップル割引の効いたチケットは通常の白色とは異なりピンク色の紙に印刷されて発行されるため、それを手にした明音はとても嬉しそうにしていた。

明音と同じピンク色のチケットに書いてある上映開始時間を確認して大輝がスマホの時計を見ると、時刻はAM11時の少し手前だった。

「まだ11時だな、映画が始まるのは14時じゃないか。」

「うん、じゃあせっかく来たんだし他のところに行って遊ぼうよ!」

「あぁ、それもいいな。」

こうして2人は映画が始まるまでの時間は、ショッピングモール内の別の場所で遊ぶ事になり、一旦映画館を後にした。


■筆者メッセージ

更新です!

お酒を飲んで帰ってきた後の執筆は眠くなってきます。。
バステト ( 2015/12/05(土) 02:51 )