第二章 出会いは突然
新学期2日目

新学期が始まって2日目となる翌日の朝、希美杉学園ではこの日からどの学年も平常通りの授業が開始される。

時刻はAM8時30分、朝のホームルームが始まる前の時間のこと、部活の朝練をしていた生徒達も続々と教室に集まってくる頃である。

「おはよう!」

2年D組のサッカー部に所属している大輝、達也、俊太、花音の4人も他の生徒と同様に教室にやってきた。


「お疲れ様、大輝!」

「おぅ明音。ありがとう。」

教室に入った大輝の元に今日も仲良く一緒に歩いて登校した明音が来た。

「昨日は宿題ありがとな、助かったよ。お礼何すればいい?」

「うーん、考えておく。」

2人の会話の通り、大輝と明音の間には長い休み開けの宿題を明音が答えを写す事を協力したら大輝が何かお礼をするというルールがあるのだ。


「達也〜、おはよ。」

その一方で大輝同様に教室にやってきた達也には、既に教室に来ていた美優紀がやってきて挨拶をしに来た。

「わたな...あ、美優紀!おはよう!」

「ふふ、美優紀呼び定着やな!」

達也に笑顔でサムズアップをしてみせる美優紀。

昨日から名前を呼び捨てで呼び合うようになった達也と美優紀の2人にクラスメート達の注目が集まった。

「お……おい、何だよ、みんな。」

クラスメートの視線の大半が自分と美優紀に向いているという状況に気付いた達也は、向けられた視線から逃げる様に自分の席に座った。

「もう2人はそんな関係になのー?」

そんな達也と美優紀の近くにいた珠理奈がいたずらっぽい顔をしながら尋ねてきた。

「いやいや!違うって!!」

もう噂になっているのかと思った達也は慌てて否定をする。

「達也ぁ、みるきーちゃんだなんて羨ましいぜ!」

しかし否定はしたものの、クラスの男子生徒からは冷やかしのヤジをぶつけられてしまった。

「だーかーらっ、そんなんじゃないんだって……。」

達也は恥ずかしさから逃れるのに必死であり、顔を赤くしながら否定を続けている。

(達也照れとるな、可愛いとこあるんやな〜。)

美優紀は達也の事を笑顔で楽しそうに見ていた。

「じゃあみるきーとしては達也の事どうなの?」

今度は1人で笑みを浮かべている美優紀に珠理奈が問いかけた。

「うーん……、秘密〜。」

珠理奈の問いにはっきりと答えはしなかったが、美優紀は否定もしなかった。

「おい秘密だってよ、達也。」

「俺は知らないって!」

美優紀が否定しなかった事でさらに教室は騒がしくなり、達也は彼を問い詰めようとするクラスメートの男子たちに取り囲まれてしまう。

「みんなおはよー、ホームルームの時間だから座ってー。」

しかしその騒ぎもホームルームの時間になり、2年D組担任の柏木が教室に入って来たことによって、すぐに収まったのであった。

「……連絡事項は特になし!今日から授業だから、みんな頑張るんだよ!」

朝のホームルームが終わった後は、すぐに1時間目の授業が始まるので、達也と美優紀はこれ以上騒がれる様な事は無かった。


それから時は進み、昼休み前の最後の1時間である4時間目に2年D組は体育の授業が入っており、大輝と達也の2人は制服からジャージへの着替えを済ませて、グラウンドへ向かって歩いていた。

「達也、今日の体育の種目はサッカーらしいぞ。」

「おぉいいな、楽しみだ。」

大輝と達也を含めた2年D組の生徒たち全員はグラウンドに出ると、それぞれのペースでグラウンドの外周のランニングを始める。

「達也、実際にはどうなんだ?渡辺さんとのことが好きなのか?」

ほぼ同じペースで並走する達也に大輝がそう尋ねてきた。

どうやら大輝も達也と美優紀の事が気になっているようだ。

「大輝…、お前まで何なんだよ、別に普通だけど?」

「本当にそうか?俺と明音は昨日お前が渡辺さんと一緒に帰っているところを見たんだが……」

そう、実は大輝は昨日、一緒に並んで帰路を歩く達也と美優紀の様子を、明音と共に少し離れた場所から目撃していたのだった。

「お前とちゅりちゃんは探偵かよ……」

「いや、たまたま見ただけだ。」

2人きりで一緒に居るところを見られてしまった事を知った達也は、大輝には正直に言おうと決め、隣の大輝にしか聞こえない声量で口から言葉を出した。

「騒がれると面倒くさいから誰にも言うなよ?……俺、気になってはいるよ、美優紀の事……、可愛い子だしな。」

「そうかそうか、じゃあせっかく体育がサッカーなんだし、良い所を見せられるといいな!」

包み隠さずにそう言った達也の背中を大輝は軽く叩いた。

「良い所を見せるって、どういう事だよ?」

「まぁ俺は体育委員だからさ、少しは達也に協力してやるって事だ。」

大輝自身が言う通り、大輝は希美杉学園の各学年の各クラスの男女それぞれ1名ずつで構成されている体育委員を担当している。

ちなみに2年D組の女子の体育委員は昼休みに昼食を食べる時に毎回一緒になっている、高城亜樹だ。

「ちょっと待て!何をするつもりだ、大輝。」

協力をすると発言した後、走るペースを早めた大輝だったが、達也の呼び止める声を背中で聞き、一旦足を止めて首だけを達也に向けた。

「それは……お楽しみだ。」

大輝は達也に「お楽しみ」とだけ残して、達也よりも早くランニングを走り終えてしまった。


「はーい、みんな整列して!」

「秋元才加」という希美杉学園の女性体育教師の声が響き渡る、グラウンド。

こうして2年D組の4時間目の体育の時間は開始されるのである。

そしてこの4時間目の体育の授業は達也に協力をしてやると言っていた大輝にも、1つの出会いのきっかけとなる時間になるのであった。



■筆者メッセージ

書き直し版、第二章スタートです。

ここからあの彩ちゃんがよく出るようになります。
バステト ( 2015/10/28(水) 04:22 )