第一章 新学期初日
一日の終わりに

一方で同じ夜のPM23時頃、大輝はスマホを片手に自宅の2階にある自分の部屋の勉強机に向かい、長時間に渡って何かに取り組んでいた。

かれこれ大輝は2時間は机に向かっている。

大輝が普段スマホを使用するのは連絡を取るぐらいで、このように遅い時間までスマホを手にしているのは珍しい事だった。

(何とか終わらせないと……)

そう、今大輝が必死に取り組んでいる事は春休みの宿題であり、期限が明日なので未だに終わっていない所の答えをスマホのトークアプリのLINEで家が隣の幼馴染みの明音に聞いて、答えを記入する作業をしているだ。

[次の答えは?]

[日本国憲法]

このようにして作業を進めている途中、大輝のスマホに明音からの着信が入った。

(通話?何だろ...)

大輝はすぐに着信に応答した。

「もしもし...どうしたんだ、明音。」

「ねぇ!あたしをいつまで大輝の宿題に付き合わせるつもりなの?」

明音の声は苛立ちに溢れているが、大輝の宿題に2時間以上付き合わされているのだから当然である。

「別に明音は暇なんだから良いだろ?」

「暇って…、あたしは早く寝たいの!」

怒っている明音の声を聞いた大輝は、やれやれと頭を掻いた。

「悪かったよ、じゃあ今から家の外に行くから明音が答え書いたやつを貸してくれよ。」

「……しょうがないなぁ、30秒以内に来るんだよ。」

大輝は通話を切ると、一目散に自分の部屋を飛び出して階段を降り、玄関を出て、隣の高柳家の玄関の前で待機して、明音が出てくるのを待った。

その後大輝が外に出て15秒ほど経過すると、上下共にパジャマに身を包んだ明音が宿題の問題集を持って現れた。

「サンキュー明音、いつもすまないな。」

「明日の朝、学校に行く時までには返してよ?それと今度ちゃんとお礼してね!」

「分かってるって、じゃあまた明日。」

「うん。おやすみなさい。」

大輝と明音は手を振りあって、またそれぞれの自宅の玄関を開けて戻って行ったのであった。

尚、2人のこのような宿題のやり取りは、お互いが小学生の頃から長い休みの度に行われる恒例の行事のようなものなのだ。


それから家に戻った大輝は再び机に向かい、早いスピードで明音から借りた問題集の答えを全部書き写した終えた。

(最初から借りれば良かったな、あっという間に終わった。)

大きな伸びをした大輝は、借りた問題集の解答欄の明音が書いた、手書きの文字を眺めている。

(昔から俺、宿題はいつも明音に見せてもらってたよな。)

ふと自分と明音の幼い頃の思い出を頭に浮かべている大輝は、勉強机のすぐ横にある棚に飾ってある写真立てに入った写真を見ていた。

(やっぱりほとんど明音と一緒に写っているな、もうかなり長い付き合いだ、あいつとは。)

大輝が懐かしさに浸りながら見ている写真は、小学生から中学生の頃にサッカーの大会で功績を残した時の記念写真や、入学式に卒業式、遠足の時などに撮影したクラス写真であり、そこにはたくさんの思い出が並んでいるのであった。


そんな大輝と同様に明音も寝る前にベッドの上で、ベッドの近くの小さなテーブルに置かれた写真立てに入った写真を見ていた。

しかし明音が見ている写真は大輝が見ていた集合写真の数々とは異なり、どちらかというと大輝と明音でのツーショット写真が多い。

(大輝は昔っから全然変わってないなぁ、本当にサッカーの事しか頭に無くて、女の子に好きって思われても、ちっとも目を向けなかった……)

明音は一瞬だけ寂し気な表情を浮かべたが、その表情から首を横に振った後、すぐに微笑みに変わった。

(友達が大輝に告白して振られたって聞いた時、その度に残念だったねって、友達には言って来た、でもあたしは少しほっとしてたりもしたな……)

明音は置いてある写真立ての内の1つを手に取って見た。

手に取った写真立てに入っている写真に写っているのは、大輝と明音のツーショットであり、小学6年の時に家族ぐるみでキャンプに出掛けた時に撮ったもので、大輝は大きな魚、明音は大きなカエルを手に持っており、2人とも仲良く並んでカメラに笑顔を向けている。

(大輝……)

すると、その明音はその写真を胸に抱いて目を瞑った。

明音の心臓は普段よりも数倍大きく音を立てて、鼓動を打っている。

(あたしと大輝は良く、付き合ってるの?って皆に聞かれたりする、その質問にはあたしも大輝も決まって、ただ幼馴染みなだけって答えてる……。でも誰にも言ってない事だけど、本当はあたしは大輝の事が好き...、いつからかなんて覚えてないけれど、気付いた時にはもう……)

大輝と明音は幼馴染みで家も隣同士、それ以上でもそれ以下でも無い関係なのだが、明音は大輝の事を意識しているようだ。

(あたし何やってるんだろ、もうこんな時間...寝なきゃ。)

明音は高鳴る胸の内を気にしながらも、手にした写真立てを元に戻して、布団を被って静かに眠りについた。



富岡大輝という男は本当に幼い頃からサッカー一筋で勉強も宿題も真面目には取り組まず、さらには友達と遊ぶ時も近所の公園や学校の校庭でサッカーだった程だ。

女子からはモテる方であったが、大輝は恋愛に興味を示した事はなく、付き合ったことは無い。

だが大輝にこの春にある1つの出逢いがあるなんて、幼馴染みの明音も、大輝本人も予想していなかったことだろう。


■筆者メッセージ

更新です。

書き直し一章はとりあえず完了致しました、次回からは二章に取り組んで行きます。
バステト ( 2015/10/24(土) 02:26 )