校舎の屋上で昼食
大輝たちが昼食を食べている間、達也はもう片方の転校生である、美優紀と2人で校舎の屋上で昼食を食べていたのであった。
時は少し遡ってホームルームが終わり、クラスメートたちは彩と美優紀の2人の転校生をそれぞれ取り囲んでいたが、それもほんの数分で晴れていった。
「…………」
周りの取り囲みが1人も居なくなった彩は1人で黙ってアコースティックギターの手入れを始めたが、美優紀は何やら1人の男とまだ話をしていた。
「へー、達也くんはサッカー部なんや、かっこええなぁ。」
「いやぁ、渡辺さんにそう言ってもらえるなんて…嬉しいよ。」
もちろん美優紀と話していた1人の男と言うのは、大輝たちとは昼食を食べるグループを外れていた達也だった。
その時美優紀は話している最中に急に自分の腹部をさすり始める。
「なぁ達也くん、ウチお腹空いてきてもうた…、さっき先生に校舎の屋上にはご飯が食べられる所があるって聞いたんやけど…、案内してくれへん?」
「え!?俺??」
美優紀から突然のお願いをされた達也は呆気に取られ、目を丸くした。
「嫌なん……?」
達也が返事をする事が出来ずにいると、美優紀はしょんぼりと寂しそうな顔をし、上目遣いで達也の事を見つめてきた。
「いや!違うって、俺で良ければ是非案内させて貰うよ!」
「やった!嬉しい、ありがとう!」
(渡辺美優紀ちゃん、可愛すぎるよ。。)
慌てて返事をした達也を見た美優紀は、満面の笑みを浮かべてお礼を言うと、照れを隠すように背を向けてゆっくりと歩き出した達也の後について、教室の外へと出て行ったのであった。
「あ、お兄ちゃん!」
達也が美優紀と一緒に教室の外へ出たその時、すぐに達也は聞き慣れた声を耳にして足を止めた。
「おぉ、遥香!良く教室の場所が分かったな!」
「頑張ってお兄ちゃんを探したんだよ、はい、朝渡せなかったお弁当!」
「そうかそうか、ありがとう、遥香。」
足を止めた達也は振り向いた先にいた女の子から、弁当箱の入った袋を受け取った。
そう、達也に弁当箱を渡した女の子こそが達也の妹の遥香である。
「遥香、友達は出来たか?」
「出来てないよ…、って、お兄ちゃんその人誰……?」
遥香は達也の隣にいた美優紀を見ると、達也の背後に隠れてしまう。
「奈良県からの転校生の渡辺さんだよ、今から屋上でご飯を食べに行くんだ。」
「ウチは渡辺美優紀や、よろしくな、達也くんの妹ちゃん!」
美優紀が達也の背後に隠れる遥香の肩に触れようとすると、遥香はさらに逃げる様に身を引く。
「そんなに怖がらんでもええやん。」
その遥香の様子を見た美優紀は手を引っ込めた。
「あはは……遥香は人見知りが激しいんだ。じゃあ遥香、また後で!」
達也はそう言って屋上を目指して美優紀を連れて階段を登り、遥香の前からは去って行ってしまった。
(お兄ちゃんと一緒にお弁当食べようと思ってたのに……)
階段を登っていく達也と美優紀の後ろ姿を見る遥香は、とても残念そうな表情を浮かべるとその場を去り、教室へと戻っていったのであった。
そして達也と美優紀は校舎の屋上へとたどり着いていた。
「わぁ凄い、こんなに綺麗なテラスがある学校が日本にあったんやな!」
「ここは色々な物が売ってるし、座って食べる事も出来るんだ。」
美優紀が目を輝かせる希美杉学園の屋上には食堂と売店があり、さらにベンチの他にパラソルと椅子とテーブルが数組ほど設置されており、それはまるでショッピングモール等にある、テラスの様である。
「俺が席取っておくから、見てきなよ。」
「ありがとう!達也くんは何かいらん?」
「俺は遥香から貰った弁当があるから大丈夫。」
浮かれた気分で売店の方へと進んで行った美優紀は約5分程経った後に、購入したサンドウィッチを持って、達也が確保していたテーブルの椅子に達也と向かい合うように腰掛けた。
こうして達也と美優紀の2人は楽しく会話をしながら、昼食を食べ始めた。
「なるほど、達也くんのお弁当は毎日あの遥香ちゃんが作っとるんやな。ええ妹やん。」
「うん、中学の時からな…、例えば朝練とかで俺が先に出掛けちゃう日も、さっきみたいに遥香は教室まで届けてくれるんだ。」
「ええなぁ…、達也くんは遥香ちゃんに愛されとるんやね。」
愛されてると言った美優紀の表情は何処か寂しげであり、そんな美優紀は買ったサンドウィッチの最後の一口を口に放り込んだ。
「……………………」
美優紀が食べ終わってからは黙々と弁当のおかずを食べ進めていく達也は突然、真正面に座る美優紀から視線を感じた。
「なぁ、達也くん…その唐揚げ美味しそうやな、ちょっと食べてみてもええ?」
「これ?別にいいけど…」
唐揚げを食べたいとお強請りをしてきた美優紀に、達也は箸を弁当箱の隅に立て掛けるように置いて弁当箱ごと渡した次の瞬間の美優紀の行動に達也は驚くのであった。
「いただきまーす!…もぐもぐ……うん!美味しい!ほっぺたが落ちそうや〜。」
(ええ!箸そのまま!?)
何と美優紀は達也が使っていた箸をそのまま使って唐揚げを食べたのである。
「こんなに美味しいもんが毎日食べられるなんて、達也くんは幸せもんやなぁ。」
唖然としている達也をよそに美優紀はそう言いながら、唐揚げ以外のおかずにも箸をつけて食べて行ってしまう。
「わ…渡辺さん?」
達也に呼ばれた美優紀はハッとした表情をした後、弁当箱をテーブルの上に置いた。
「ごめん、つい美味しくてたくさん食べてもうた…」
「いや…あの…箸……」
「あー、ごめんな。ウチそういうの気にせんから……、もしかして、嫌やった?」
箸のことを指摘された美優紀は申し訳無さそうな目で達也を見た。
「いやいや、俺も気にしないから!大丈夫だよ。」
達也は物凄く気にしていたのにも関わらず、美優紀にはそう答えたのであった。
「なら良かった。あ…ウチそろそろ部活の見学の時間や…、そうや!達也くん、メアド教えてくれへん?」
「え、メアド…?全然良いよ。」
まさかメールアドレスを聞かれるだなんて思ってもいなかった達也だったが、内心ではとても嬉しかったので、すぐにスマホを差し出して美優紀と連絡先交換をした。
「ありがと達也くん。なぁ、今日部活終わったら、一緒に帰らへん?」
「一緒に!?俺とでいいの?」
一緒に帰ろうと誘ってきた美優紀に達也はまたまた驚いた。
「うん。ウチまだ友達がおらんから1人なんよ、部活終わったら達也くんから連絡してくれへん?」
「分かった…、サッカー部は終わるのが遅いけどそれでもいいか?」
「大丈夫やで、終わるまで待っとるから。」
達也の質問に美優紀は微笑みを浮かべながら答えた。
「……じゃあ時間がもう無いから、また後でな。」
「あ…あぁ、また後で!」
美優紀は達也に手を振ると荷物を持ち、足早に校舎の屋上を後にしていったのであった。