昼食の時間の大輝たち
大輝は当然ながら放課後には部活の練習があるため、ホームルーム解散後も教室に残り、今朝母親から受け取った弁当箱を空け、普段から仲良くしているクラスメートと共に昼食を食べながら会話をしていた。
大輝と一緒に昼食を食べているのはサッカー部マネージャーの花音、大輝の幼馴染みの明音、さらに2年D組の学級委員で陸上部に所属している「松井 珠理奈」と、2年生サッカー部員の1人である「荒木 俊太」、その俊太の彼女であり女子テニス部の「高城 亜樹」だ。
この大輝、花音、明音、珠理奈、俊太、亜樹の6人に達也を加えた7人は授業がある日の昼休みや、この日のように早くに放課になった日に昼食を食べる時、基本的に一緒になっているグループなのである。
「花音、今日の練習何時までだっけ。」
「6時半までだよ、7時が最終下校だから終わったらすぐに帰りの支度してよね、皆が遅いと玲奈さん怖いんだから。」
大輝と花音が部活の終わりの時間について話していると、明音が割って入ってきた。
「サッカー部は6時半までやってるの?吹部は6時15分までだから大輝を待たなきゃ行けないじゃん!」
「明音、だったら1人で帰ればいいだろ?」
「あ!こんなに可愛いあたしに暗い道を1人で歩かせるの?大輝は。」
明音は持っていた箸を置くと、腕を組んで睨むような目で大輝を見た。
「何言ってんだか…、誰も明音の事なんて誘拐したりしないだろ。」
「そうやってすぐ女の子にイジワルな事ばかり言うから大輝は彼女出来ないんだよ…。」
その明音の一言に大輝はすぐに反論をするのだった。
「明音こそ彼氏出来たことないじゃないか、そんな事言われる筋合い無いわ。」
「違う!あたしには良い人がいないだけ!作ろうと思えば……」
「あはは、明音はいつもそう言うよな。」
「うるさい!大輝の馬鹿!」
このように大輝と明音の幼馴染み2人は些細な事ですぐに言い合いに発展するのである。
そんな2人を見かねて、クラスの学級委員である珠理奈は大輝と明音の間に口を挟むのだった。
「はいはい、2人共、夫婦喧嘩はお家でやってね。」
……
「夫婦じゃないっ!!」
珠理奈に言われた大輝と明音は声を揃えてそう言った。
確かに大輝と明音は幼馴染みでとても仲が良く、その様子を見た多くの人が2人の関係を疑うが、本当にこの2人はただの幼馴染みで、それ以上でもそれ以下でも無いのだ。…多分……。
それから大輝と明音が落ち着くと、別の話題の話が始まった。
「そう言えば達也はどこ行ったの?」
明音が周囲を見渡すが、普段は一緒に昼食を食べる達也の姿は無く、彼の机の上にはシューズケースが置いてあるだけである。
するとこれまで黙々と昼食を食べていた亜樹が口を開いた。
「私、達也がさっきみるきーと一緒に教室の外に出て行くのを見たよ。」
転校生の1人である美優紀と一緒に何処かに行ったという亜樹の情報に、達也とは中学の頃から関わっていた大輝、明音、花音は食いつく。
「マジか、達也の奴女子に近付こうと…、中学以来じゃないか?」
「うん、それも飛びっきり可愛い子にね。」
「でも達也は全然女の子にはモテないからなー。」
中学から一緒なだけあって、この3人は達也の事をよく知っているおり、実は達也は中学時代に彼女を作りたいがために気になった女子に次々と告白をしたが全く上手く行かず、笑い話になったと言う過去があった。
「まったく…あいつには遥香がいるのにな。」
「確かに…達也は遥香ちゃんだけには溺愛されてるもんね。」
大輝と花音が言う遥香とは、達也の1学年下の「島崎 遥香」という妹の事であり、その遥香は完全なるお兄ちゃんっ子で、周囲からは異常に見える程に兄の達也を慕っているのだ。
「遥香ちゃんもこの学校に入学したし、吹部に入るって言ってたから今日の部活体験に来るのが楽しみだなぁ。」
そして明音が言う通り、その遥香は昨日晴れて希美杉学園に入学を果たしており、明音と共に中学の時からやっていた吹奏楽部に入部予定のようである。
このようにして大輝がクラスメートの明音、花音、珠理奈、俊太、亜樹の6人と昼のひと時を過ごしていた時、突然聞きなれない音が教室の後ろの方から聞こえてきたのだった。
「……!?」
聞きなれない音を耳にした6人が不審がりながらも一斉に音のする方を見ると、謎の音の正体はすぐに分かった。
「え、ギター??」
6人が見た先にはギターケースを背負った大阪のから転校生である、山本彩がケースから取り出したアコースティックギターを座ったまま弾いて、音出しをしていた。
「彩ちゃんだっけ?それってギターだよね?」
音の正体を見つけた6人のうち、真っ先に席を立った珠理奈がギターを持つ彩に駆け寄る。
「せやけど…」
「彩ちゃんは軽音部に入るの?」
「私は部活はやらへん、バイトしとるから、時間が無いねん。」
珠理奈と彩が会話をしている様子を黙って見ている大輝、明音、花音、俊太、亜樹の5人は聞き慣れない関西弁を耳にして、不思議そうにしていた。
「そっか…、あ、私の名前は松井珠理奈!それでここにいる5人が……」
「ごめんな、今日はバイトで時間が無いんや…、私はもう帰る、みんなとはまた明日にでもお話させてくれへん?」
珠理奈の言葉を遮り、ポケットから取り出したスマホの画面で時間を確認した彩は急いだ様子でギターをケースに収めて、席を立つ。
「分かった、また明日ね、彩ちゃん。」
「うん、またな。」
大輝、明音、花音、珠理奈、俊太、亜樹の7人は教室を出て行った彩を見送った。
「珠理奈、行っちゃったね。」
明音が席に戻ってきた珠理奈に声をかける。
「うん。まぁ明日になれば転校生の2人とも仲良くなれるでしょ!」
珠理奈の一言で7人はこれから2人転校生と関わっていくのが一層楽しみになったのであった。
一方その頃…達也はと言うと…。