2人の転校生
朝練が終わると大輝は部室で着替えをしながら同じサッカー部員にして、親友の「島崎 達也」という男と会話をしていた。
「達也、今日から新学期だ。」
「おぅ、そうだな。でもうちの学校はクラス替えが無いから、あまりわくわくしないよな。」
達也が言っているように、希美杉学園では新学期毎のクラス替えは無い。
「担任も変わらないんだっけ?」
「うん、今年もゆきりんだ。まぁD組の人は全員ゆきりんの事好いてるからいいな。」
達也の言葉に出ているゆきりんというのは、大輝と達也のクラスであるD組の担任である「柏木 由紀」という女教師のあだ名であり、その柏木は昨年から希美杉学園に配属となった教員である。
「大輝、達也、早く部室から出てよ、私は鍵を返しに行かなくちゃいけないからホームルームに遅れちゃうよ。」
部室の外から花音の声が聞こえた。
「花音、教室間違えるなよ?今日から2年だぜ?」
「花音は中学の時、新学期なのに間違えて前の年の教室に来たよな、あれは笑った。」
「うるさいなぁ、もう間違えないよ...」
過去の話をイジられてしまっている花音は2人が部室が出て行くのを確認すると、部室を施錠した。
ちなみに過去の話をする大輝と達也と花音は中学からの付き合いであり、中学生の時も大輝と達也はサッカー部員で、花音はマネージャーだったのだ。
それから体育館での始業式を経て、大輝、達也、花音のいる、2年D組の教室では新学期最初のホームルームが行われようとしていた。
「みんなー!早く座ってー、ホームルームやるよ、早く終わればもう今日は授業無いから早く帰れるよ!」
教室内に散らばっている生徒たちに着席を促しているのが、2年D組担任の柏木由紀である。
「先生ー、何でこの学校はクラス替えが無いの??」
着席した後にすぐに再び立ち上がり、大きな声で柏木に質問を投げかけたのは「高柳 明音」、彼女は大輝の幼馴染みであり、何と小学校からずっと一緒であり、住む家も隣同士で、ほぼ毎日の様に登下校時には大輝の隣で一緒に並んで歩いている程の仲であり、部活は吹奏楽部に入っている。
「ちゅりちゃん、それは私にも分からないよ...。」
そんな明音のあだ名は「ちゅり」だ。
「ふーん。。」
質問の答えを得られなかった明音だったが、特に気にする様子は無く、大人しく席に座った。
「まぁ新学期になっても、あまり変わらないのがこの学校なんだけど、今日はD組の皆にお知らせがありまーす。」
柏木がそう言ったが教室の生徒たちは、あまり面白くなさそうにしていた。
しかし、柏木からの知らせの内容を聞くと生徒たちは一様に顔を上げるのであった。
「実は...今年からこのD組の仲間になる転校生が何と2人も来てくれました!!」
生徒たちが耳に止めたのは勿論、転校生という言葉だった。
「え、マジで?」
「男?それとも女?」
「どんな人?」
騒めき始める教室内。
「じゃあ早速入ってきて貰いましょう!」
柏木がそう言って教室の戸を開くと希美杉学園の制服を着た、2人の女子生徒が入ってきたのだった。
2人の内、一方は背中にギターのケースを背負っており、もう一方はニコニコと明るい笑顔を教室中に向けている。
「右の子可愛くないか?」
「いや、左だろ。」
「いやいや、どっちもだよ、あの子達が同じクラスになるとか、最高だな。」
転校生は2人とも可愛らしく、男子生徒たちはほとんど全員目を輝かせ、ひそひそと話をしている。
「じゃあ2人とも自己紹介しよう、名前と何処から来たかを言ってね。」
柏木が自己紹介をするように2人の転校生に指示を出すと並んでいる2人の内、背中にギターケースを背負った方が先に1歩前に出た。
「大阪から来ました。山本彩です。よろしくお願いします。」
「山本 彩」と名乗った転校生は、ギターケースを背中から下ろして、ぴしっと背筋を伸ばし、深々とお辞儀をすると教室内には大きな拍手が巻き起こる。
そして拍手が止むと、もう1人の転校生も1歩前に出る。
「奈良県から来た、渡辺美優紀です!皆さん、みるきーって呼んでくださいね?部活は吹奏楽部に入ります。よろしくお願いします。」
「渡辺 美優紀」と名乗った方の転校生は、先に自己紹介をした「山本 彩」とは違い、緩い感じの甘い声をしており、そんな彼女がペコリとお辞儀をすると、また再び拍手が鳴り響いたのだった。
「……とりあえず2人の席はあの空いているところね。…というわけで!山本彩ちゃんと、渡辺美優紀ちゃんが今日からみんなの仲間になりました、早くみんなに馴染めるように仲良くしてあげてね!」
「はーーい!」
新しいクラスメートが出来た事に湧いている教室内の生徒は柏木の話に声を揃えて返事をした。
「じゃあ、さっきも言った通り、今日のホームルームはこれで終わります!また明日ねー。」
こうしてホームルームが終わると彩と美優紀の2人の転校生の元には一斉にクラスメート達が人集りを作った。
それから生徒たちは部活や課外活動があり、昼食を食べる者と、帰宅する者とに別れるのだった。