不調のエース
合宿二日目、この日も空は目が痛いくらいに澄み切って晴れ渡っていた。この日は昨日のような一日中の練習だけではなく、先に同じく合宿に来ている他校のサッカー部との練習試合が予定されている。
昨日のこともあって朝から美優紀は達也にウィンクをしたり、手を振ったりしていたが、達也は基本的に気付かないフリをしながら、他の部員とウォーミングアップをしていた。
「どうしたん?みるきー何か楽しいそうやね。」
「うふふ。何でもないで〜」
「みるきー先輩、さっきから達也先輩ばっかり見てません?」
「さぁー、どうやろなー。」
とにかく美優紀は楽しそうにしていた。
「彩ちゃん、みるきー、涼花ちゃん!喋ってないで手伝って!」
「はーい。」
彩、美優紀、涼花の3人は花音に注意されると駆け足で花音、茉夏、玲奈のいるところへ向かい仕事を手伝いに行った。
その後部員たちのウォーミングアップが終わると、練習試合が始まろうとしていた。
大輝と達也は2年生では唯二人、スターティングメンバーに入っており、3年生たちともにピッチの上で練習試合前のパスやシュートの練習やフォーメーションの確認をしていた。
ちなみにこのゲームでは大輝がフォワードで、達也はディフェンダーのポジションのようだ。
練習試合中はマネージャーもベンチから試合を見れるので、彩、美優紀、涼花の3人はとてもワクワクして嬉しそうにしていた。
そして練習試合はキックオフを迎え、開始された。
希美杉学園高校のサッカー部は強さとしては中くらいであったが、今回の練習試合は毎年県下でも屈指の実力のある強豪校が相手であったため、試合状況はとても目まぐるしく転回していき、いわゆる面白いゲームとなっていた。
「スペース使えって!!」
「もっと詰めろよ!!」
両チームの指導者の声や選手たちの声が飛び交う中、ピッチの中で躍動する選手たち、達也は試合開始してから幾つもの危ない場面を体を張ったディフェンスで守り、活躍していたが....
「おぃ!富岡!」
大輝はあまり調子が良くないようであった。
2年生にして、エースストライカーの座に君臨している大輝だったがミスを繰り返しており、実に彼らしくない状態だった。
「そんなところで取られるようじゃ、ダメだ!交代だ!」
大輝は試合時間を重ねるも、調子を上げることは無く、ついには選手交代させられてしまった。
選手交代を告げられた大輝は肩を落としながら、ピッチを出てベンチに戻ってきた。
(大輝....上手く行ってないみたいやな....)
同じベンチの少し離れた位置で彩が大輝を心配そうに遠目で見ていると、大輝の側に涼花が居た。
「大輝先輩、お水です。」
「ありがとう。えっと、涼花ちゃんだよね?」
「え?はい!」
大輝は涼花と直接的に接したのは初めてだったが、涼花が差し出してきた飲用水のボトルを受け取って中身を口に含んだ。
「あの....何処か体が悪いんですか?」
「いいや、何ともない。こんな日もあるかなってだけだよ。」
「そうですか....、なら良かったです。」
二人が隣に座って話していると、ピッチの上では大輝に代わって入ったフォワードの3年生の部員がゴールネットを揺らしていた。
「あはは、今年の大会は俺はベンチかもな〜」
大輝はゴールを決めた希美杉学園の歓喜の輪を見ながら頭を掻いていた。
「えー、そんな....いいんですか!?」
「言い訳無いだろ、頑張らないと。」
「ですよね....」
大輝は悔しいというより、これからのことを既に考えているようだった。
そしてそのまま練習試合は希美杉学園が取った1点を守り切って、強豪校のチームを相手に勝利を決めていた。
「達也〜、ナイスディフェンスだったで〜」
「おぉ、美優紀。ありがとな、さすがに相手が強かったわ。」
試合をフル出場した達也の表情には少々の疲労が見られた。
練習試合の後、部員たちは普通の練習も時間いっぱいにこなし、ホテルに戻って行った。