救世主はお嬢様
遥香を抱きかかえながら雨に打たれて歩く達也の前に止まった車は大きなリムジンだった。
(車か....なんだ....)
達也は止まったリムジンに目を向けず、そのまま遥香を抱えて足を進めた。
すると達也がリムジンの後ろ側のドアを通り過ぎた時、そのドアが開き、車内から女性が1人飛び出して来た。
「達也!」
達也が背に聞いた、自分の名前はとても聞き慣れた声で、達也はハッとして後ろを振り返った。
「美優紀!?」
「遥香ちゃん....どないしたん!?」
美優紀は出掛ける用事の帰りで車に乗っていて、偶然、雨の中遥香を抱えて歩く達也を見つけたのだった。
「とにかく、乗って!!」
「.....分かった!」
達也は美優紀に連れられ、リムジンに乗り込み、リムジンならではのベットのように倒す事の出来るシートに遥香を寝かせた。
「鹿野!はよ行くんや!」
「はい!」
鹿野と呼ばれた、運転席の男は美優紀の指示に従い、猛スピードで車を走らせた。
達也は突然現れた美優紀と今起きている出来事に驚きながらも、シートに横たわる遥香の手を握っていた。
その時、美優紀は何処かに電話をかけていた。
「神山?治療の準備を!」
「....ええから!すぐに運べるようにしとくんや!命令や!」
それからリムジンが滑走すること約10分、リムジンはまるで山奥に佇む西洋の城のような屋敷の車庫に停車した。
「美優紀、ここは....?」
「話はあとや!」
車が止まると遥香は車庫で待機していた白衣を着た人達の手により担架に移され屋敷の奥に運ばれていった。
「ちょっと、きて!」
そして達也は美優紀に腕を捕まれ屋敷に入り中を進むと、エレベーターに乗り、屋敷の中でも一番最上階、10階の部屋に来ていた。
「達也....大丈夫?」
「あぁ....助かったよ。」
「....///」
達也は微笑み、美優紀の目を見ると美優紀は少し頬を赤くし、目をそらして掴んでいた腕を離した。
「びしょびしょやん....、達也、先にお風呂入ってええで。」
「あのさ、ここは?」
「私の家や....、それでここが私の部屋....」
美優紀があまりの大豪邸に住んでいる事を初めて知った達也だが特に反応はしなかった。
「へぇ、美優紀ってお嬢様だったんだ〜。」
「まぁ....、ええからお風呂入って、着替えは用意させるから!」
美優紀は一瞬悲しそうな目をしたが、すぐに笑顔になり、世話役のような人を呼んで男用の着替えを持ってこさせた。
「渡辺様、男性用の衣類になります。」
「おおきに、」
「他に御用は....」
「ええよ、今日はもう全部自分でやる。」
........
「あれ?今のさっき車を運転してた人?」
「うん。鹿野って言うねん、何でもやってくれる。」
鹿野という人物が部屋を出ていくのを見送ると達也は美優紀の部屋の浴室に向かった。
それから達也が風呂から出てくると、美優紀も風呂に入り出てきた。
「美優紀、今日はありがとう。」
美優紀が出てきた時、達也は部屋にあるバーカウンターの椅子に腰掛けていた。
「いいえ〜、たまたま通りかかっただけやから。」
達也に感謝された美優紀はとても嬉しそうな顔をしていた。
「遥香は?」
「寒くて弱ってただけやから、多分明日の朝には起きると思うで?それに、うちの専属の医者たちが診てくれてるから、心配せんでも大丈夫やで。」
「そっか。本当にありがとう!」
「そういえば、何であんな状況になっとったんや?」
達也はあの騒動の経緯を美優紀に説明した。
「それは大変やったなぁ。でも羨ましいわ、遥香ちゃん。」
「羨ましい?」
「達也みたいな、優しい人と一緒に暮らしてさ....」
「え…あ…いやいや、そんなこと無いって....///」
二人で会話をしていると二人はバーカウンターに座ったまま眠りについてしまった。