01
ひょんな事から、勇介が牙狼の称号を受け継いで、一週間が経過した。あれからホラーは出現せず、平和な日々を過ごしているように思えるが、街は住みにくくなっていた。
軍隊が出動し、厳重に市民を警護している。ホラーから守るために。
一番の変化を遂げた勇介は、奈和の家にある研究室に来ていた。
魔戒剣をカプセルの中に入れ、調べていた。
その辺にある機材を弄る勇介は、後ろから奈和と魔戒剣の姿を見ていた。
メガネを掛けながら、パソコンをカタカタと操作する奈和は、魔戒剣についてを調べ終えた。
「この剣、あんたにしか操れないみたい」
「俺だけに?」
「うん。一般人にとっては、超重量の特殊金属でできているの。でも魔戒騎士となった勇介は、心の在りようによって重量を変えられるみたい」
なるほどっと何度も頷いた勇介は、手に持っていた機材を元の位置に戻した。
「それでさ、鎧は調べないの?」
「無理よぉ。だって新聞にも書いてあったでしょ? 皮膚が溶けちゃうって」
「あっ、そっか……」
勇介は、奈和の側に目を向けた。そこには、頭部のない身体をしたデザインの置物が置いてあり、頭部として、あのリングがフィットしていた。
「この指輪は、調べないの?」
「これ? これはただの指輪でしょ。調べる必要ないわよ」
椅子をくるっと半回転させ、パソコンと向き合った。
「おい」
「何よ勇介?」
「えっ、何も言ってないよ?」
「嘘つかないでよ。今おいって言ったでしょ」
「言ってないよぉ〜!」
立ち上がった奈和は、人差し指を縦に立てながら、勇介と言い合いを始めた。
そんな言い合いを、側から見ている第三者が、声を掛けた……。
「おい、お前らを呼んだのは、俺様だ」
2人はピタッと動きが止まり、部屋中をキョロキョロと見回した。
「な、なに今の……?」
怯える勇介は、奈和の後ろに隠れた。
「ここだ、ここ」
2人は、机の上にある置物に目を向けた。そこには、口をカタカタと動かす指輪があった。
「うぎゃあああ!!」
2人は大声で叫び、パニックに陥った。勇介は部屋中をぐるぐると駆け回り、壁に激突し転倒。奈和は棒状の機材を手に取り、武器代わりにした。
「ちょ、ちょ、ちょっと何よあんた!?」
「全く、騒がしい奴らだ。俺様は魔道輪ザルバ」
自己紹介をした指輪改め、魔導輪。
ザルバは古代より、黄金騎士のサポーターとして活躍している。傲岸不遜な性格だ。
「貴方、喋れるの?」
「驚く事はないだろ。俺様は、お前達に感謝してるんだ」
「感謝?」
「あぁ。お前達のおかげで、俺様は目覚める事が出来た。まぁ、同時にホラーも目覚めてしまったがな」
自分が目覚めた事は喜ばしいが、ホラーの目覚めは喜ばしくない。何とも複雑な気分であるザルバ。
「おい小僧」
「えっ、俺?」
「そぅお前だ。お前、牙狼を継ぐ気がないのなら、この女と代わる事だな」
「ちょ、ちょっと急に何を言うのよ!?」
「この男には、騎士としての勇敢な根性がない。魔戒のルールが無くなった今、女も騎士になれる。お前がなるといい」
ザルバの言うことに戸惑う2人。すると勇介が、奈和の前に立った。
「ダメだ。奈和は女の子だし、あんな危ない事はさせられないよ!」
ザルバは、軽く笑った。
「そうだ。その心意気を見たかったんだ」
「えっ?」
「悪く思うな。少し、お前さんの気持ちを調べさせてもらった」
「もぉ〜。驚かすなよユビワ〜!」
「ザルバだ」