01
大都会から離れた山奥に、一つの洞窟があった。
この場には、古代より伝わる財宝が眠るという噂が、前々からあった。
それを確かめる為、ある人物が財宝を探しに来た。
洞窟の奥で、砂埃を被った扉を、彼女は見つけた。
「ここだわ……!」
都内の高校に通う女子高生、古畑奈和。気が強い性格であり、誰にでも同じ態度で接する。相手が誰であろうと、言いたい事は何でも言ってしまう、少々扱いにくい女性だ。
大学院の考古学部で考古学を学び、この事を知った。
知りたがりである彼女は、何でも自分の目で確かめなくては、気が済まない性格だ。
捜査の協力には、手を貸そうとする者は居なかった。
たった1人を除いては……。
「痛っ!」
両手で抱えた機材を落とし、前に倒れた彼を、奈和は溜息を吐きながら見た。
「ちょっと、しっかりしてよ。この機材、借り物なんだからね!」
顔を上げた彼は、黒縁メガネを右手の人差し指でクイッと上げた。
「ご、ごめん……!」
苦笑いながらも、どこか和んでしまうような彼は、奈和の同級生である津上勇介。
奈和とは違い、気が弱く小さい。さらに臆病だ。いつも誰かの影に隠れている彼と奈和は幼馴染であり、勇介にとって奈和は、姉のような存在だ。
幼少期、近所の子によく虐められていた勇介は、何度も奈和に助けてもらっている。
勇介は、奈和に言われた機材を渡した。機材を使い、扉を開いた奈和。
「開いたわよ」
自動ドアのように、両方に扉が開いた。
中は円状になっており、2人が中に入った途端、周囲に立っている松明が勝手に火を灯した。
勇介は怖気つき、奈和の後ろに隠れ、服を掴んだ。
「ちょっと、しっかりしなよ!」
「ご、ごめん」
勇介を引き離した奈和は、懐中電灯を取り出した。勇介に1本渡した。勇介はまた、奈和の後ろに隠れ、服を掴んでいる。
部屋の中央には、地面に置いてある台形の石に、1本の剣が突き刺してあった。
そして、その後ろにある壁の窪みには、石板の棺桶が立て掛けてあった。
「あったよ勇介……!」
目をキラキラさせている奈和の後ろで、勇介は不安そうに何度か頷いた。
2人で石板の蓋を外すと、中には鎧が入っていた。黒い鎧だ。人型に収納されている。
「これが、財宝なの?」
鎧を見る勇介は、奈和に尋ねた。
「そう、なのかなぁ?」
想像をしていた財宝とは、全く違ったようだ。王冠や金銀があると思っていた2人にとって、この鎧はただのガラクタだ。
「でも、噂は本当だったのね」
奈和が鎧を調べ始めると、勇介は剣の方へ振り返った。
ゆっくりと近づき、右手で柄の部分を掴んだ。
「あれ、抜けない……?」
両手で柄を掴み、全身全霊の力を込めて引き抜こうとしたのだが、剣はビクともしなかった。
「勇介、何してるの?」
「この剣、抜けないんだ」
「どれどれ」
勇介よりは力がある奈和は、勇介の代わりに剣を両手で掴み、引き抜こうとした。
だが、やはり剣は抜けない。
「硬っ、無理だよコレ!?」
「じゃあ、俺がもう一度!」
再度挑戦したのだが、結果は同じだ。
気合が空回りし、勢いよく尻餅を付いた勇介は、その際、何か壺のような物を倒してしまった。
真っ二つに割れてしまった壺には、一枚の札が入っていた。
「もう、シャキッとしなさい!」
「は、はい!」
勇介が奈和に叱られている影で、札が微かに光った……。