05
次の日、僕は昨日あった一切のことを玲奈に伝えた。そして僕の話を聞いた玲奈は驚いた。まぁ、当然だろう。驚かない方がおかしいぐらいだ。
「じゃあ私があの生田さんにピアノで勝たなきゃいけないってこと…?」
「まぁ、そうなるね……。」
玲奈の顔がどんどん曇っていくのがよくわかる。それもそうだろう。普通に戦って生田さんに勝てる人などまずいない。ただし“普通に”戦えばだ。ピアノを評価するあくまで人間だ。人間が評価するなら演奏の上手さ以外にも勝負できることがある。
「大丈夫。玲奈ならきっと勝てる。」
「いくらなんでも無理だよ……。」
「思いで勝負するんだよ。玲奈が僕を思ってくれているならその思いをぶつけるんだ。」
「思いをぶつける…?」
「玲奈の思いを聞き手に届けるんだよ。」
“テクニックで勝てないなら思いで勝て”父さんが僕に残した言葉だって母さんから聞いた。僕は父さんを知らない。僕が生まれる前にこの世を去ったからだ。母さんは僕にピアノの才能があったからこの言葉を僕がピアノの始めてすぐに教えなかったって言っていた。でも僕がピアノを好きになってときに母さんはこの言葉を教えてくれた。まぁ本当のところ、父さんの言葉を使うときがくるなんて思ってもみなかったんだけど。父さんや母さんの名に恥じない演奏をしていたつもりだからね。
「奏人のために頑張る!奏人を生田さんなんかに渡さない!」
あと僕にできるのは玲奈を信じることだけだ。玲奈ならきっと大丈夫。頑張れ玲奈!