04
「ちょ、何をするんだよ。」
唇が離れたため僕は生田さんにもの申す。
「えっ?キスだけど?」
あっけらかんに答える彼女に僕は困惑する。キスしてきた本人はキョトンとしてるし……。いきなりなんでこんなことをしてきたのかまったくわからない。
「なんでいきなりキスなんてするんですか。」
単刀直入が一番早い。僕はストレートに質問した。
「だって一緒にピアノを弾いてくれるんでしょ?だったらもうフィアンセだよ。フィアンセにキスしたらダメなの?」
まったく頭が追い付かない。なんて僕がフィアンセにされてるんだ…。意味がわからないというのはまさにこういうことなのだろう。呆れるを通り越してるよ……。
「一体いつ僕がフィアンセなんかになったんだよ。」
「いつって…?だって連弾するってことは結婚するってことだよ?それが生田家のしきたりだもん。」
は?と言ってしまうのをぐっと堪える。ここで怒ったところで意味はない。多分、彼女には無駄だろう。
「僕には彼女がいるんだよ。だから結婚なんてできない。」
「できないじゃなくて、しなきゃいけないんだよ?」
「……帰らせてもらうよ。」
埒が明かない。こういうときは帰るに限る。話にならないっての。
「帰っていいの?咲子さんだよね?お姉さんの名前。どうなってもいいの?」
部屋の出口へと向かっていた自分の足をピタリと止める。そして振り向く。そこにはニコニコしている彼女がいる。なんて人だよ……。平気な顔してあんなことをいきなり言ってくるなんて恐ろしい……。さっきまでの天然さんはどこ行ったんだよ……。
「わかったよ。その代わり、僕の彼女とピアノで勝負して勝つことを条件にさせてもらうよ。君なら負けないから問題ないだろう?」
「その程度ならいいよ。負けるわけないからね。」
この賭けに勝たないと僕は……。正直勝てないわけじゃない。でも確率的にはかなり低いし、普通じゃ無理だ。玲奈に頑張ってもらう必要がある。なんとしても勝たないと……。