十七話
その日の夜、バイトをしていた。
「先輩って、どんな音楽聞いたりするんですか?」
「邦ロックとかかな」
この前の一件以来、祐希は陽人により一層懐いている。バイト中暇だとよくキッチンにきて、たわいもない話をよくするようになった。
「与田そろそろホール戻らなくていいのか?怒られるぞ」
「たぶん大丈夫です」
「なにが大丈夫なのかな?堂々とサボって」
その声は祐希の背後からした。その人物は祐希の頭に軽く拳骨をした。
「い、生駒さん!?」
声の主は、生駒里奈だった。生駒は陽人と同い年で、高校生の頃からこの店のホールで働いている。
「ごめんね白石君。与田ちゃんが仕事の邪魔しちゃって」
「全然大丈夫だよ」
「ほらいくよ与田ちゃん!」
生駒に引っ張られながら、祐希はしぶしぶホールにでていった。この日は平日ということもあり、あまり忙しくはなかった。ピークを過ぎた頃だった。
「白石君。まいやんきたよ〜」
生駒がキッチンに報告をしにきた。麻衣は、陽人がこの店で働くようになってから、月一度か二度、来ていた。そのため、店の従業員とは顔見知りだ。
「陽人ホール出てきてもいいぞ」
「すいません設楽さん。ちょっとだけいってきます」
ホールに出ると麻衣と祐希と生駒が話していた。
「麻衣さんお久しぶりです!」
「与田ちゃん久しぶり〜」
祐希は麻衣に抱きつき、麻衣は祐希の頭をなでている。
「あれ?まいやん。今日はいつも見ない人と連れてきてるけど」
「そうだった!紹介するね。私の妹の日芽香と、日芽香の友達の飛鳥」
お互いに挨拶をする日芽香たち。
「あ!お兄ちゃん!!」
ホールに出てきた陽人に気づき、嬉しそうに手を振ってくる。
「なんだ日芽香と飛鳥もきてたのか。」
「お姉ちゃんに言ったら連れてきてくれた!」
「なに?来たらダメだった」
「そんなこと言ってないだろ飛鳥。まぁゆくっりしてけよ」
飛鳥の頭を撫でた。飛鳥はうつむきながらも小さく頷いた。
「生駒3人のことよろしくな!」
「まかせといて!」
陽人に親指を立て答える生駒。それを見て、3人に手を振ってキッチンに戻って行った。
飛鳥がこの日は機嫌がものすごくよかったと、家に帰ってから麻衣から聞いた。しかし陽人は飛鳥の機嫌がよかった理由を全く分かっていなかった。