第一章〜始まりの空
翼を駆る少女〜5〜
福本の指摘にたかみなは明らかに面白くなさそうだった


「報告ならしたし、今はここを離れられない…そんなに話を聞きたきゃ、司令が行けばいいのよ。あのカエル親父なら喜んで上にゴマをするわよ」


平然と上官批判をする彼女に私は呆然としてしまった


「フフ…一尉らしい。まぁ、これだけの大事なら司令部が慌てるのも無理ありません」


福本は柔和な笑みを絶やさない




2人のやり取りを聞いている内に、どうしてもある疑問をぶつけたくなった


「あの…」


私が口を開くと2人はこちらを見た


私は思いきって心を支配し始めた疑問をぶつけた


「こんなんでいいんでしょうか?人も死んで…それに…」


軍隊を取材するにあたっては彼らに触れてはならない事が幾つもある


今、私が言おうとしている事はその禁止事項に触れる


さすがにたかみなも許さないかもしれない


それでも…


「私達を攻撃してきた戦闘機…私は飛行機は詳しくないです…でもやってきた方向は…あれって」

だが私が言おうとした事を、たかみなは先に言ってしまった


「華僑連邦か…イワン共和国か」


私はまさか先に言われるとは思わず目を丸くした


「フフ…世界地図を見た事あれば、誰だってあの二ヵ国を疑うわよ」


華僑連邦はユーラシア大陸にある国家で、オノゴロ皇国の列島の西側に海を挟んで位置する

そしてイワン共和国は、同じくユーラシア大陸にあり華僑連邦の北に位置する大国だ


両国とも社会主義国で、イワンは華僑に多大な政治的な影響力があったし、資本主義国のオノゴロとは微妙な関係で成り立っている


「当然皆それは考えてるわよ。私達がこの島にいる理由だしね…」


そう言うとおもむろに立ち上がり大きく伸びをしながら話を続けた


「だからさ…今頃はどっかのお偉いさんがホットラインをバンバン鳴らして話してる訳さね〜」


福本も黙って聞いている中で更に…

「そのお偉いさんは今頃必死で戦争しないようにしてるわけ…自分達のルールに沿ってね。だから確かに言いたい事、疑問はあるだろうけど、私達にはどうしようもないの。確かに割りを食ってる玲奈には悪いけどさ」


そうだ…これは子供の喧嘩ではない。

安っぽい正義感というのが通用するほど甘くはない


私はそれが理解できない子供じゃない

と同時に仲間を失った彼女に聞いてはいけない疑問だと恥じた



どらごん ( 2013/11/29(金) 05:28 )