太陽戦隊ヒナタレンジャー ―虹色の戦士たち―










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episode-0 序章
プロローグ -起-
「きゃぁぁッ!」
「た、助けてくれぇッ!」

 白昼の街中で響く悲鳴。
 宇宙海賊団「ヒラガーナ」の戦闘員、ガーナ兵が人々を追い回し、捕らえて拉致していく。
 時間も場所も予告せず、突然、不定期に開かれるヒラガーナ海賊団の娯楽「人間狩り」。
 捕らえた人間たちは宇宙船へ連れ帰り、有能な人間は女王ネルネルの側近である科学者、ドクターアモンに改造手術を施されて新たなガーナ兵に、そして無能と判断された人間は奴隷として死ぬまで働かされる地獄のふるいにかけられる。
 その捕らえた人間の数を競って散り散りに走り回るガーナ兵たちと、そこに混じって暴虐を尽くすヒラガーナ海賊団の女幹部、イグチ魔女。
 愛用のステッキをかざし、
「ファァっ!」



 目を見開いて奇声を上げると、手に持つステッキの先から高熱の火球が放たれ、直撃した電柱が爆発とともに真っ二つに折れて倒壊する。
 そしてまた轟く悲鳴。
「アハハ♪ほぉら!早く逃げなさい、愚民ども!さっさと逃げないと拉致られて改造されちゃうわよぉッ♪」
 と高笑いのイグチ魔女は、続いて、率いてきたガーナ兵たちにも、
「さぁ、お前たち!残り3分、狩った人数が少なかった最下位から二人は役立たずとして死刑よぉッ♪長生きしたかったらもっともっと手当たり次第に人間を狩りなさぁいッ♪」
 と残酷なことを笑顔で言い放つなど狂気に満ちている。
 それに対し、死刑にされるのはゴメンだと投げ縄、捕獲ネットなどを手に走り回るガーナ兵と、そんな彼らから逃げ惑う若者たち。
 運悪く捕らわれた人間たちはロープで縛り上げられ、次々にトラックの荷台に積まれていく。
「だ、誰か…助けてくれぇッ…!」
「い、嫌だ…改造なんてされたくねぇよぉっ…!」
 と悲痛な声を上げるも、同じ目に遭ってたまるかと逃げ惑う人間たちには届かない。
 チラッとそのトラックの荷台に目をやり、
「ひぃ、ふぅ、みぃ…」
 と、笑みを浮かべながら捕獲した人数の途中経過を指折り数えるイグチ魔女。
 今のところ、ざっと20人前後。
 このうち何人が新入りガーナ兵に転生し、また、何人が定年のない永久奴隷になるのか楽しみだ。
「ほらほら、残り2分!サボってる子は焼き殺すわよぉッ!」
 と発破をかけ、なおも続くガーナ兵たちの人間狩り。
 一人、また一人と、トラックの荷台に積まれる人数が増えていく。
 そんな中、
「はぁ…はぁ…!」
 と息を切らして逃げる一人の女性が石につまずき、悲鳴を上げて転んだ。
 助け起こす者は誰もいない…みんな、他人のことより自分が逃げ出すことで精一杯だ。
 その女性の転倒に気付き、
「ぐへへ…ラッキー…♪」
 と足を止め、その転んだ女性を次の捕獲対象に定めてジリジリと近寄る一人のガーナ兵。
 握りしめられた捕縛用のロープを前に、
「い、嫌っ…助けて…だ、誰かぁッ…!」
 引きつった表情で泣き叫ぶ女性。…と、その時っ!

 ブォォォン…!

(…!)
 けたたましい走行音とともに、突如、人間狩りのド真ん中に乱入してきたオートバイ。

 キィィィッ…!

 巧みなブレーキと同時にジャックナイフターンを華麗に決め、持ち上がった後輪が女性を狙ったガーナ兵を薙ぎ倒す。
「イーッ…!」
 宙返りをして地面に打ちつけられ、そのまま動かなくなるガーナ兵。
 さらに乱入したライダーはバイクを停めると同時に颯爽と飛び降り、近くにいたもう一人のガーナ兵も華麗なハイキックで蹴散らし、文字通り、一蹴する。
「イーッ…!」
 異変に気付き、
「な、なにやつッ!?」
 と目を見開くイグチ魔女。
 助けられて茫然とする女性に、
「逃げて!早くっ!」
 と叫ぶその謎のバイク乗り。
 外したヘルメットの下から長髪を靡かせた彼女の名は富田鈴花…!



「き、貴様ぁぁッ!」
 楽しみの最中の突然の乱入者に瞬間湯沸かし器のごとく激昂するイグチ魔女。
「邪魔者は消え失せよっ!ファァっ…!ファァっ…!!」
 再び奇声を発し、手にしたステッキから火球を二発連続で飛ばす。
「くっ…!うわッ…!」

 ドゴォォン!ドゴォォン!

 飛んできた火球は二発とも上手く身を翻してかわしたものの、その爆炎に巻かれてしまう鈴花。
 そこに、
「とどめよッ!焼け死になさいッ!」
 と、さらに追撃の火球を飛ばそうとするイグチ魔女だが、そこに、

 バシィィッ…!

「がぁっ…!」
 不意の衝撃とともに手に持つステッキが弾き飛ばされ、得意の火球は出せなかった。
 足元で弾むバスケットボール。
「だ、誰だっ…!」
 と、すかさず衝撃が飛んできた方にキッと目をやると、そこに立っていたのは渡邉美穂…!



「鈴花っ!大丈夫!?」
「な、なんとか…!」
 と言い合う二人。
 さらにイグチ魔女が振り返ると、これまでガーナ兵の独壇場だった筈が、いつの間にか、いたるところで見知らぬ女たちの邪魔が入っているではないか。
「てやぁぁッ!」
 と少し舌っ足らずな声とともに、愛刀の竹刀で居合抜きのごとくガーナ兵の群れの中をすり抜ける丹生明里。
 同じく、
「えいッ♪」
 と可愛い掛け声ながら華麗にガーナ兵を投げ飛ばす合気道の有段者、宮田愛萌。
 さらに濱岸ひより、河田陽菜も加勢し、華麗な身のこなしでガーナ兵たちを圧倒する。
「なっ…ど、どういうことだ…?コイツらはいったい…?」
 と突然の乱戦に混乱するイグチ魔女だが、ふと目をやると、同じく現れた松田好花、金村美玖の二人が捕獲した人間を積むトラックを襲撃し、荷台の獲物たちを解放しようとしているではないか。
「き、貴様らぁぁッ!そこで何をしているッ!」
 再び激高し、阻止に走ろうとするが、その動線上に、また一人…凛とした女が立ちはだかった。
「くっ…!」
 キッと睨むイグチ魔女を臆することなく鋭い目つきで睨み返し、ビシッと指を差して、
「ヒラガーナ!何の罪もない人々を手に掛けるなんて…許さないわよ!」
 と啖呵を切ったその女、小坂菜緒…!
「何を小癪な…!ファァァっ!」
 落ちたステッキを拾い直し、再び奇声とともに火球を発射。
 それを、
「やぁッ!」
 と人並み外れた跳躍力であっさりかわした菜緒。
 そしてキレイな着地と同時に、その両サイドに駆け寄った美穂、鈴花の二人と目配せをして、
「美穂!鈴花!行くよ!」
「オーケー!」

「ハッピー…オーラっ!」

 息を合わせて言い放つと同時に、腕に巻いたブレスレットをクロスする三人。
 すると、一瞬、三人が眩しい光に包まれ、次の瞬間、姿が強化スーツを纏った戦士に変わっていた。
 菜緒は赤色、美穂は青色、そして鈴花は紫色。
 その姿で、

「ヒナタレッドっ!」
「ヒナタブルーっ!」
「ヒナタパープルっ!」

 と、それぞれポーズ付きで名乗る三人。
「な、なにっ…!貴様らは…!」
 困惑するイグチ魔女だが、さらに別のところからも続々と、

「ハッピー…オーラっ!」

 と掛け声が聞こえ、その瞬間、人間狩りを邪魔しに来た女たちが色を纏った戦士へと変身する。

「ヒナタグリーンっ!」
「ヒナタイエローっ!」
「ヒナタピンクっ!」

 と、こちらもそれぞれ自身の強化スーツの色に合わせて名乗る好花、美玖、愛萌。
 さらに残りの三人はイグチ魔女を取り囲むように三角形に散らばったところで、一斉に、

「ハッピー…オーラっ!」

 とブレスレットをクロスさせ、同じく戦士の姿へ。

「ヒナタオレンジっ!」
「ヒナタホワイトっ!」
「ヒナタブラックっ!」

 と順に名乗る明里、陽菜、ひより。
「ヒラガーナっ!」
「これ以上の悪事は許さないっ!」
「観念しなさいっ!」
 変身が完了と同時に、三方向から突進する三人に、
「ちょ、調子に乗るんじゃないよっ!ヴァァァァっ!」
 と今までと声質の違う奇声を上げるイグチ魔女。
 その瞬間、辺りに爆風が巻き起こり、
「きゃぁぁっ…!」
 勢い良く駆け込んだ三人はそのまま来た道を戻るように吹っ飛ばされた。
「陽菜っ!ひよたんっ!」
「にぶちゃん、しっかり!」
 と倒れた三人を抱き起こす仲間たち。
 その様子も目に入れつつ、
「き、貴様ら…何者だ?」
 と問うイグチ魔女。
 それに対し、
「私たちはこの日向星を守るために生まれた戦士、ヒナタレンジャー!」
 と名乗るリーダーのレッド(菜緒)。
「ヒ、ヒナタレンジャー…?」
「ヒラガーナっ!お前たちの暴虐非道な振る舞いをこれ以上見過ごすワケにはいかない!」
「二度と悪さの出来ないよう、今この場で叩き潰してやる!」」
 と差した指を握り拳に変え、リーダーに続いて啖呵を決めるブルー(美穂)とパープル(鈴花)。
「くっ…おのれ…」
 この時点で形勢は6対1。
 さらに吹っ飛ばした三人もすぐに起き上がり、9対1となって周囲を円で取り囲まれては幹部格のイグチ魔女もさすがに分が悪い。
「お、おのれ…ヒナタレンジャー…勝負はお預けよっ…!」
 と捨て台詞を残し、その場から消え去ったイグチ魔女。
「き、消えた…!」
「テレポート…!」
 と口にするイエロー(美玖)、ピンク(愛萌)だが、何はともあれ、ひとまずこうして、この場で行われていたヒラガーナの人間狩りは阻止できた。…とはいえ、また別の場所で人間狩りが行われるかもしれない。
「…菜緒、どうする?」
 とリーダーであるレッドに指示を仰ぐグリーン(好花)。
 声をかけられたレッドが、一度、深く深呼吸をしながら念じると、纏っていた真紅の強化スーツが溶けるように消え、変身前の人間体、小坂菜緒の姿に戻った。
 同様に、輪になって集まった仲間たちも次々に変身を解いて人間体に戻る。
 全員が変身を解いたところで、改めて菜緒は、
「一旦、ヒナタベースに帰ろう。また、いつ何時、ヤツらが人々を襲い始めるともかぎらないから、常に身構えておかないと…」
「うん、そうだね!」
「了解っ!」
 と頷き合う仲間たちに続き、
「久美隊長にも報告しないといけないしね」
 と付け加える丹生と、その陰で、
「この場合、どう報告すんの?」
「んー…ひとまず撃退成功…じゃない?」
 とコソコソ言い合う陽菜とひより。
 この光景だけ見ると、一見、まるで大学の仲良しサークル…。
 だが、その実態は、厳しい訓練で身体能力を磨き、掛け声とともに腕に着けたブレスレットをクロスすれば光とともに色鮮やかな戦士に変身し、ヒラガーナ海賊団に立ち向かうこの星の救世主たちだ。


(つづく)

鰹のたたき(塩) ( 2022/11/03(木) 01:11 )