サプライズサービス feat 愛妻・史帆 -幕開け-
「奥さん。お若いですねぇ」
「いやいや、そんなことないですよぉ〜。やだ、照れちゃう…♪」
と普通に会話をしている二人の姿に唖然、目が点の蔵夫。
いつもの設定で指名した彩花はともかく、これまで架空の新妻役だった史帆が、まさかの本人登場だ。
会話が弾む二人をよそに、依然、ポカンとしたままの蔵夫。
そんな蔵夫を見て、
「どうしたの?蔵夫。固まっちゃって」
と聞く史帆。
「え…な、何で二人がここに…?」
「何でって、私たちのお家じゃん。ここ」
と史帆は平然と言い返し、続けて彩花がこの状況を理解させるように、
「蔵夫くんが機械オンチでリモートワークの仕方が全然分からないって言うから、仕方なく私が会社の帰りに教えに来てあげたんじゃない」
(え、あっ…そ、そういうこと…?)
「ウチの会社も、どんどんリモート活用していくみたいだから、早く慣れないとついてこれないよ?」
と彩花は話し、続いて史帆に向かって、
「すいませんねぇ、こんな時間にお邪魔して」
「いえいえ。こちらこそ、蔵夫がご迷惑をおかけしまして申し訳ないです。ホントに」
「ササッと教えて帰りますので」
「そんな、そんな…お構いなく。あっ、コーヒーでも淹れますね。すいません、気が利かなくて」
と他愛もない会話を交わす二人を、堅い表情で見比べる蔵夫。
(マ、マジ…?いよいよ自宅かよ…)
これまで過去三回の来店時とは段違いの緊張感。
ましてや、この後、当然そういうことに発展していくのが分かっているから尚更だ。
史帆が台所でコーヒーを淹れる音が聞こえる中、
「さ、やるよ。まずパソコン出して」
とソファーの隣に座ってくる彩花だが、そのタイミングで、
ピロピロリン…♪ピロピロリン…♪
と彼女の胸ポケットから着信音が鳴った。
さぁ、これからという時の着信に、
「もぉ…誰?」
と不機嫌そうにスマホを取り出す彩花だが、画面を見て、
「…ごめん、親からだ。多分、今年の正月の帰省のことかな?ちょっと電話してくるから、その間にパソコン立ち上げといてね」
と言い残し、リビングから出ていった。
(え…ど、どゆこと…?)
シチュエーション開始早々、席を外す彩花に困惑する蔵夫。…と、そこに史帆がスタスタと寄ってきて身を屈め、耳打ちするように、
「ねぇ、蔵夫…早く済ませて、さっさと帰ってもらってよ…?」
「え…?」
すっかり覚えた彩花の匂いとはまた別の、新しい女の匂いの接近にどぎまぎする蔵夫。
史帆は、彩花が席を外したのをいいことに、これまでと一転、不満げな表情で、
「だってさ、ずっと前から決めてたじゃん。今日はエッチする日って」
「━━━」
「明日は休みだから心置きなく出来るって言ってたでしょ?」
「━━━」
黙り込む蔵夫に、
「とにかく。…さっさと用は済ませて、帰ってもらってよね。私もずっと楽しみにしてたんだから…」
と言って、史帆が、いきなり大胆に唇を重ねてきた。
「んぷっ…!」
(…!?)
完全に不意打ちのキス。
お目当ての彩花とはまた違った舌の絡ませ方、香り、そして感触…。
目の前に迫る史帆の顔面は透き通るほどに色白で、一見ギャルっぽい見た目とは裏腹に、か弱い乙女に見えた。
(や、やべぇ…見れば見るほど、史帆ちゃんも可愛すぎるッ!)
彩花を差し置いて、目の前の彼女に心を奪われそう…引き立て役という役柄がもったいないぐらいだ。
「んっ…んっ…」
キスに没頭する二人。
ネチョネチョと舌を絡め、唾液を交換し合ううちに、自然と史帆の細い腰に手を回し、抱き寄せようとするが、次の瞬間、甘い雰囲気から一変、突き飛ばすようにして史帆が蔵夫から離れた。
(え…?)
と、一瞬、困惑するも、すぐに理由が分かった。
近寄る足音…電話を終えた彩花が戻ってきたからだ。
史帆は、ササッと口元を整えると、
「この続き…楽しみにしてるから…♪」
と耳打ちして、スッと台所に戻っていく。
そして入れ替わるように、
「ごめん、ごめん。さ、始めよっか」
とソファーに戻ってきた彩花だが、次は彼女がムッとして、
「ちょっと…準備できてないじゃん!私が電話してる間にパソコン立ち上げといてって言ったよね?」
「え、あっ…す、すいません…」
「もぉ〜、何やってんのよぉ!」
と彩花は肩をすくめ、一度、チラッと台所に戻った史帆に目をやって、
「新婚で可愛い奥さんがいたら気になるのも分かるけどさ。私も、蔵夫くんのためを思って言うんだよ?」
「は、はい…すいません…」
「ほら、早く立ち上げて。さっさとやればすぐ終わるから。ね?」
「はい…」
言われるがまま、ノートパソコンを開き、起動させる蔵夫。
立ち上がるのが妙に遅く感じる。
実際に遅いのか、それともこの空間が息苦しくてそう感じるのか、どちらともいえない。
ようやくホーム画面が開いた。
「よし。じゃあ、まず、インターネットに繋いで…」
と説明する彩花が、ふいに身を寄せるように近づく。
(…!)
いつも通り、ドキッとした。…が、今日は手放しにウキウキすることはできない。
なぜなら、既に背中に、射抜くような鋭い視線を感じたからだ。
まるで腕利きのスナイパーにライフルを向けられている気分…。
怖くて台所の方は見れない。
そんな蔵夫に構わず、
「ここをクリックして…で、次に、ここ」
と手振りをつけて説明する彩花。
軽く腰を浮かして座り直すたびに密着度が増してる気がする。
(…や、やべっ…)
ふと殺気を感じ、硬直したところに近寄る影。
「あのぉ、コーヒー…お口に合うか分かりませんけど、ここに置いておきますねぇ」
と、お盆に乗せて運んできた史帆。
彩花のぶんは“デキる妻”を演じた作り笑顔で差し出したのに対し、蔵夫のぶんは何も言わず、
ドンッ…!
と荒っぽくテーブルに置く。
そして去り際の刺すような視線…。
(ねぇ、ちょっと…なにイチャイチャしてんの?)
と問い詰められているような気がして、あっという間に背中を汗だくだ。
妻と上司、美人二人からの板挟み。
両手に華…?いや、違う。
それどころか、これまでの浮気がバレるか否かの瀬戸際…それが見事なまでに演出されている。
どこからともなく、
ピピピッ♪ピピピッ♪
と音がした。
それを聞いて、
「あ、乾燥機とまった!」
と史帆が独り言を発し、スッと部屋を出ていく。
その瞬間、肩の荷が下りたような感覚で溜め息をつく蔵夫。
だが、休まるヒマはない。
ふいに彩花の手が、蔵夫の太ももに置かれた。
「え…ちょ、ちょっと…先輩…?」
ロボットのようにぎこちなく目を向けた先には、彩花の、いつものあの意地悪な笑顔が待っていた。
顔を近づけ、
「奥さん、向こうに行ったね…♪」
と囁き、太ももをいやらしく手つきで撫で回す。
「あ、いや…ちょ、ちょっと…まずいッス、まずいッス…」
と、慌ててその手を捕まえ、遠ざける蔵夫。
指名しておいてまずいも何もないのだが、なんというか、場の空気に完全に飲まれ、反射的に拒否してしまった。
「え〜?ダメなのぉ?」
と残念そうな彩花だが、依然、囁きは続く。
「奥さん、綺麗な人だね?」
「あ、ありがとうございます…」
「奥さんのどこが好き?」
「え…えーっと…か、家庭的なところ…ですかね…」
「へぇ〜…♪」
彩花は感心するように頷いて、
「エッチはよくするの?」
「え…?い、いや…それは別にいいじゃないスか」
キョドる蔵夫に対し、彩花は笑って、
「何でよ?夫婦でしょ?しかも新婚だし…しない方がおかしくない?」
と問い、続けて、
「それに明日は休みだもんね。…もしかして今晩…♪」
「━━━」
押し黙る蔵夫に、
「あー、図星だぁ♪」
と笑みを浮かべる彩花。
ニヤニヤしながら、
「今晩のために、ちゃんといっぱい溜めてるのかなぁ?ここ…♪」
と股間に触れる指先に、たまらず、
「や、やめてくださいよ…」
慌てて目線をパソコンに戻す蔵夫だが、当の彩花の、もうすっかりパソコンなど眼中になし。
「…ねぇ。チューしよっか♪いつもみたいに…」
と耳元で囁き、顔を近づけてくる。
「え…ちょ、ちょっと…」
自然と気になる背後。
だが、彩花は構わず強引に唇を重ねてくる。
「んぷっ…!」
口を塞がれ、侵入してくる可愛らしい舌。
ペチャペチャと舐め回し、いつになく積極的で濃厚なキス。
さらに彩花の指が、カッターシャツの上から乳首をなぞる。
「んっ…んっ…」
と吐息を漏らすと、彩花は、一旦、口を離し、ニヤリとして、
「そんなハァハァ言って…奥さんに聞こえても知らないよ?ふふっ…♪」
と言って、再び唇を重ねる。
セットとして作られた廊下の向こうからガチャガチャと家事の音がする。
つまり、それぐらいの距離の先に、史帆がいるということだ。
(くっ…や、やばい…やばいって…)
いつものように流れに身を任せることが出来ない。
むしろ、迫る女体を押し退けようとする蔵夫。…だが、その手を難なく掴み取り、ブラウスの膨らみへと誘導する彩花。
「ほらっ、今日も触りたかったんでしょ?いいよ、いつもみたいに好きにしてくれても…♪」
(ち、違う…!違いますっ!…あ、ちょ、ちょっと…!)
慌てふためく蔵夫。
廊下の向こうからスリッパを擦る音が戻ってくるのが聞こえたからだ。
振りほどくように身体をパソコンに戻し、重ねた唇も、磁石が反発したように急いで離す。
「よし…部屋干し完了」
も独り言を言ってリビングに戻ってきた史帆。
怪しまれた様子は…まだない。
(セ、セーフ…!)
これまでとは比べ物にならない、とんでもないスリルに額は汗だく。
そして、そんな蔵夫の慌てっぷりを隣でクスクスと楽しむ彩花。
これがサプライズ…?
いやいや、とんでもない。
(な、何だよ。この緊張感…!)
ヒヤヒヤする一進一退の演出は、ここからまだまだ続きそうだ…!
(つづく)