プロローグ
俺の名前は澤利 泰造(さわり たいぞう)。
都内某所のマッサージ店に勤めて、そこでマッサージ師をしている。
美容整体や脚のむくみ取りなどを看板に大きく書いてアピールしている手前、男性より女性の来店が多い上、なぜか若い女性客に充てられることが多い俺は、日々、体内に宿る性欲と戦いながら職務をまっとうしている。
昨日も、田園調布に住んでいるというセレブな若妻が来店したが、この奥さんが俺にとってド真ん中ストライクの顔立ちで、しかもスタイルも抜群…!
そんな女性の肌に直に触れ、頭がおかしくなりそうだったが、かといって、我慢できずに一線を越えるようなことをすると、いろいろまずい。
いまや、アダルトビデオや歓楽街においても『マッサージ』というものは嗜好の一種として確立され、大きなジャンル分けの一つとして定番化している昨今だが、もしあんなことを実際にやってしまうと完全無欠な猥褻で、即、警察沙汰となり、あっという間に人生ジエンド。
よって、『本職:マッサージ師』の男は、目の前に人参をぶら下げられている馬のごとく、興奮を必死に抑えながら女体に触れて施術を行わなければならない過酷な職務で、これが実は相当辛い。
街ですごく美人の女性とすれ違ってつい興奮したとかの次元ではなく、そのような女性が来店して実際に肌に触れるところまで行くのだから尚更だ。
(やべぇな…そのうちマジで暴走して、胸とか触っちゃいそうなんだよな…)
そんな懸念が常につきまとい、日々、自身の理性との戦いが億劫な泰造だったが、先日、とあるイメクラの話を耳にした。
店の名前は『slope』といって、現在、乃木坂店、櫻坂店、日向坂店の三店舗を都内でチェーン展開しているという。
この店の人気の秘訣は、女の子のレベルの高さはもちろん、客のどんな願望にも対応可能な柔軟さと、思わず現実だと錯覚するほどの女の子の演技力の高さらしく、教えてくれた友人もお試しの一回でどっぷりハマって、すっかり沼だという。
(お、俺も行ってみようかな…)
幸い、そんなべらぼうな価格設定でもなく、敷居はそこまで高くない。
そして、もし、それらの評判が事実なら、泰造にとって、日々の憂さ晴らしにもってこいかもしれない…。
そして、給料日の翌日、○月△日。
とうとう、その噂のイメクラ『slope』を訪ねた泰造。
指定したシチュエーションはもちろん…。
「えっとですね…僕が『マッサージ師』って設定で、女の子がいわゆる『マッサージを受けに来たお客さん』。で、部屋は『マッサージ店の施術室』で、最初は普通のマッサージだった筈が、だんだん…みたいな流れでお願いします…」
(つづく)
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