2.打診
ピシィィィッ…!
「うぅっ…!」
ピシィィィッ…!
「くっ…!」
ピシィィィッ…!
「んあぁっ…!」
「…うぅっ…!」
乾いた音と女の呻き声で目を覚ます聖菜。
頭がぼーっとする。
起きぬけ、体勢が辛いのは両手を吊られていたからだ。
「くっ…!」
必死に手首を捻るも、しっかりと嵌まった手錠と、天井に伸びる鎖は外れない。
そして、だんだん目の焦点が合ってきたところで、聖菜は、
「め、めぐっ…!」
と声を上げた。
先ほどから耳につく乾いた音と呻き声…それは、同じく手を吊られて立たされためぐが、南那から鞭の嵐を浴びている音と声だった。
「あうっ…!」
「アハハ!楽しいっ!いい気味よ、めぐ!ほらぁっ!」
かつての仲間に容赦なく笑顔で鞭を振るう南那。
たまらず、
「めぐっ!!」
と、もう一度、声を上げたところで、ようやく南那は振り返って、
「あら、聖菜。遅いお目覚めで」
とクスッと笑い、
「一足先に始めさせてもらってるわよ。侵入者の処刑をね」
と言った。
その奥には、既に何発も鞭を打たれ、レザースーツがビリビリに破れためぐの姿があった。
乱れた髪に、ふらつく脚。
相当、疲れているのが目に見えて分かる。
「南那…!よ、よくも、めぐを…!」
かつての同胞とはいえ、さっきといい、今といい、自身の大の親友を嬉々として痛めつける姿にはもう我慢ならない。
ようやく情けを捨て、はっきりと敵意の眼差しを見せる聖菜。…が、しかし。
「ふふっ、そんな目をしても私にとっては痛くも痒くもないわ。第一、その姿で何が出来るというの?」
「くっ…!」
唇を噛む聖菜。
確かに南那の言う通り、手を吊られて身動きがとれない今の状態では、戦うことも逃げることも、ましてや目の前のめぐを助けることすら出来ない。
「どう?自分が置かれてる状況、少しは理解した?」
「━━━」
「心配しなくても、聖菜は聖菜で、あとでたっぷり遊んであげるから。だから今は黙って見てなさい」
と南那は微笑し、再度、めぐの方に向き直り、再び鞭を構える。
そんな南那の背中を睨む聖菜だが、いざ鞭が振り上げられると、やはり黙認できず、
「ま、待って…!」
「もう…!何よ?うるさいわね」
呆れて振り返る南那に対し、聖菜は、
「や…ら……から…」
「何っ!?聞こえないんだけどっ!」
「せ、せめて…やるなら私から…」
と声を上げる聖菜。
すると、南那は、
「…ふーん、そういうこと」
と、不敵に笑って、
「そんなに私の鞭で打たれたいの?めぐばっかりずるいってこと?聖菜、もしかしてドM?」
「ち、違う!そ、そんなワケないでしょ…!」
と聖菜は顔を赤くして、
「こ、これ以上、めぐを痛めつけないで…めぐのぶんも私が受けて立つわ…!だから、もう、めぐには手を出さないで…!」
「せ、聖菜っ…!ダメ…そんなの…」
身代わりを買って出る聖菜に慌てて待ったをかける傷だらけのめぐ。
「あらあら、素敵な友情ね。涙が出そう」
南那は馬鹿にしたように吐き捨てつつ、
「まぁ、その勇気に免じて、考えてあげなくもないわ。それじゃあ、聖菜、次はアンタが私の憂さ晴らしに付き合ってくれるワケね?」
「━━━」
覚悟を決めたように頷き、チラッとめぐを見る聖菜。
(私は何をされてもいい…!だから、せめて、その間だけでも、めぐは休んで…?)
満身創痍でふらつく親友の姿が、聖菜は見てられなかった。
体力さえ戻れば、どうにか突破口を開いてくれるだろう。
(そのためにも、ここは自分が身代わりになる…!めぐなら、必ず、私の仇を討ってくれる筈…!)
聖菜はその一心だったが、当の南那は、
「へぇ…おもしろいじゃん」
と不敵な笑みを浮かべはしたものの、
「でもね。悪いけど、いくら聖菜が身代わりになろうと、そう簡単に逃がすワケにはいかないわ。逃がしたところで、めぐは、またすぐに仲間を連れて聖菜を助けに戻ってくる。さしずめ、美音とか、こみ(込山)とかね…」
「━━━」
黙る聖菜。
めぐも図星という顔だ。
少しの沈黙…。
そして、その沈黙を破るように、
「じゃあさ。こういうのはどう?」
と南那が声を発し、棒立ちの聖菜にゆっくりと近づいて、突然、鞭の柄で、聖菜の股間を突いた。
「あうっ…!」
ふいの激痛に小さく飛び上がり、表情を歪めて前屈みになる聖菜。
南那は、そんな聖菜の髪を掴み上げ、ニヤリと笑い、
「ふふっ、アソコが痛いでしょ?…そう。ここにいる三人は、全員、身体に同じ“秘密”がある。…言ってる意味、分かるよね?」
「━━━」
南那の言葉に思わず顔を赤らめる聖菜、そして、めぐ。
彼女が指していること…それは、今、ここにいる三人の女、谷口めぐ、福岡聖菜、そして大和田南那。
この三人が、それぞれ、外見は女でありながら、股に男根を備え持つ両性具有、つまり『ふたなり』だということだ…。
押し黙る二人に対し、南那は笑って、
「まさか、この会わない何年かの間に切ったりしたワケじゃないでしょ?今もちゃんとついてるんだよねぇ?」
と、試しに、聖菜の股間に押し当てた鞭の柄をぐりぐりとひねる。
「ぐっ…!があぁっ…!」
苦悶する聖菜に対し、南那は、
「ほら、今もまだ、しっかりついてるじゃない。めぐはどうなの?」
「━━━」
答えず、そっぽを向くめぐ。
声には出さずとも、その反応がイエスと答えているようなものだ。
南那は、さらに言葉を続け、
「せっかくだから、この特徴的な身体を使ったゲームで運命を決めるってのは、どうかしら?」
「ゲ、ゲーム…?」
「そう。アンタたちが勝てば、望み通り、逃がしてあげる」
「━━━」
突然の提案に困惑する二人。
どんなゲームか分からない。が、嫌な予感はすごくする。
次の言葉を待っていると、南那は、一瞬、聖菜の股間を覗き込むように見てから、クスッと笑い、
「これから、アンタたち二人、一人ずつ、私と“ココ”を使った我慢対決で勝負するっていうのはどう?どっちか一人でも我慢できたらアンタたちの勝ち、解放してあげる。逆に二人とも我慢できなかったらアンタたちの負け、敗者の処遇は私が決める。…どう?簡単でしょ?」
「━━━」
なんとなく意味を察し、黙って顔を赤らめる聖菜。
一方、めぐは演技なのか、それとも天然か、
「え…ど、どういうこと…?」
と聞き返す。
「だからぁ〜!」
南那は、面倒くさそうに肩をすくめて、
「今から私が制限時間を決めて、アンタたちのふたなりチンポを好き勝手に弄ぶの。それを時間内に我慢できずにイッたら負け、イカずに耐えれば勝ちってこと。…どう?分かった?」
「━━━」
それを聞いて、ようやくめぐも顔を赤らめた。
そして黙り込む二人。
南那は、意気揚々と、
「どう?このままずっと来るかどうかも分からない仲間の助けを祈って待つよりは手っ取り早いと思うけど?」
「━━━」
「それに、この場合、勝ち負けの責任は全て自分自身。その方が諦めもつくでしょ?…ねぇ、お二人さん。どうかしら?」
決心を問うように聞く南那。
(な、なんてバカげた話なの…!品格を疑うわ…!)
かつての同胞も、見下げ果てた女だと失望する聖菜。
だが…。
(で、でも…!や、やるしか…ない…かも…)
現状、南那の言う通りであるのも確かだった。
ひとまず手を吊る鎖が外れないことには自力での脱出は不可能だし、当然、理由もなしに外してくれる筈がない。
かといって、このまま南那が放つ鞭の嵐に耐え続けたところで、他の仲間が助けに来てくれるかどうかは分からない。
自分は、最悪、犬死にでもいいが、せめてめぐだけでも逃がしたい。
そして、今、この状況で、めぐを逃がすには、結局、南那の提案を受け入れるしかないのではないか。
「1分、待ってあげる。その間に、どうするか二人で決めたら?」
と、南那は余裕な態度で背を向けた。
対面で向き合い、言葉は交わさず、目だけで会話をする二人。
(ど、どうする?)
(…や、やっぱり嫌だよ、そんなの…!)
(でも、それ以外に方法が…)
(━━━)
めぐはまだ躊躇している様子だった。…が、結局、条件を飲むしかないと理解したのだろう。
(…分かった)
と言うように、めぐも小さく頷いた。
そこでちょうど1分。
「どう?決まったの?」
向き直って問う南那に、聖菜は赤面しながら、
「わ、分かった…やるよ…」
と告げた。
それを聞いてニヤリと笑った南那。
その笑みは真意は果たして…?
(つづく)