1.手強い妹たち
彼の名は赤井五郎。
悪の組織『欅坂46』の魔の手から日本を守る特命戦隊ヲタレンジャーのリーダー、ヲタレッド。…だった。
しかし、数ヶ月前、熾烈を極めた死闘の終盤、ケリをつけるべく、仲間とともに敵の本拠地『欅共和国』に乗り込んだまではよかったが、立ちはだかった大幹部五人衆『MARRY』の一人、リサの圧倒的な強さの前に手も足も出ず、敗北を喫した。
捕らわれた五郎を待っていたのは壮絶な性拷問。
サドの気があるリサの奴隷として調教された五郎は、彼女のペットに成り下がり、手、口、脚を使った憂さ晴らしの抜きイジメ、そして性欲処理に付き合わされて腰振りと射精を強要される地獄のような毎日を送る羽目になった。
そんな五郎が、辛くもリサの監視下から脱走したのは先週。
奴隷部屋の牢の施錠が不完全になっていた隙を見て、脱出したのだ。
差し向けられた追っ手の目から身を隠し、何とか東京にある本部まで帰還した五郎。
ヲタレンジャーの参謀、江川総司令は、
「無事だったか!心配したぞ!」
と温かく迎えてくれたが、その次に出たのは、
「君たちが音信不通になってから、ヤツらの侵攻が止まらん。もはや東京は壊滅的状況だ」
という無念の言葉だった。
(畜生っ…!)
それを食い止めるどころか、その間、まんまと敵の手に落ちていた不甲斐なさを悔やむ五郎。
そして怒りは、あの憎き女、リサに対しても。
(よくも俺をあんな目に…!すんなりとどめをささず、俺を生かしておいたことを後悔させてやる!ヲタレンジャーの名にかけて、次に会った時は必ず倒すぞ!)
不屈の闘志を胸に、ヲタレッド、五郎は、再び立ち上がった。
ヤツらの東京侵攻作戦を食い止めるため、一人、街から街へと奔走するレッド。
仲間四人を欠いても休んでいるヒマなどない。
総司令から託された強化ヲタシューターを手に、都内各地に配置されたモンスターを次々と葬ってゆく。
「この俺がいるかぎり、お前たちの好き勝手はさせないぞ!」
と見得を切るレッド。
絶望に瀕した東京都民の最後の希望、赤い闘志のヲタレッド。
その怒りの炎が、今、再び燃え盛る!
「おりゃぁぁっ!」
レッドの拳の連打が、怪人の胸に打ち込まれる。
「ぐわぁっ!」
もんどりうって倒れるカマキリ怪人。
「よし、とどめだ!」
腰から抜いた強化ヲタシューターを構え、狙いを定めて光線を発射するレッド。
「ぐぎゃぁぁぁっ…!ヒ、ヒラテ様ぁ、お許しを…!」
光線が命中し、断末魔の叫びとともに爆発するカマキリ怪人。
「よし…!」
爆発した煙が薄れていくのを見届けて、次なるモンスターのところへ向かおうとした時、ふと、レッドの足が止まった。
(蝶だ…!)
今まで見たことのない、妖しい模様の羽根をした蝶が目の前を舞う。
(こんな蝶が日本に生きてるなんて聞いたことないぞ…!)
昆虫図鑑などでも見たことがない。
その蝶は、レッドの目の前にきたところで、カッと光を放ち、突然、蝶から女へと姿を変えた。
(…!!)
長身でスレンダーなボディラインと見覚えのある、いや、忘れたくても忘れられないコスチューム。
「フフフ…探したわよ、ヲタレッド」
「リサ…!」
因縁の敵の突然の登場に、とっさに身構え、戦闘態勢に入るレッド。
リサは、ニヤリと笑って、
「あら、もしかして私とやる気?」
「当たり前だ!前回の借りを返してやる!」
「前回の借り…それは、どっちのことかしら?」
「どっち…?」
「私に手も足も出ずにやられたこと?それとも私に調教されて精子をたくさん搾り取られたこと…?」
「う、うるさいっ!行くぞ!」
マスクの中の顔を真っ赤に染め、それを誤魔化すように駆け出すレッド。
「てやぁぁっ!」
渾身の拳を繰り出す。
だが、完璧に捉えたと思った瞬間、リサは再び蝶に化けて宙を舞った。
そして再び人間体に戻り、
「バカな男ね。私とお前の実力差を忘れたの?たいして特訓もしないで第2ラウンドなんて、それで本当に勝てると思っているのかしら?」
「うるさい!もう前回の俺じゃない!前のようにはいかんぞ!」
「やれやれ…」
リサは面倒くさそうに肩をすくめ、
「そんなに言うのなら、どれだけ力を上げたか、見せてもらおうかしら」
「何だと!?」
「いでよ、可愛い妹たち!」
と、突然、空に向かって声を上げるリサ。
(い、妹…!?)
すると、どこからともなく、また見たことのない蝶が二匹、飛んできて、リサの前に留まった。
同じようにカッと光を放つと、その二匹の蝶が、それぞれ女に姿を変えた。
「くっ…!」
「紹介するわ。私の妹、ヒカルとホノスよ」
とリサは微笑んで、
「私と戦う前に、まずはこの二人を倒してみなさい。私が相手をしてやるのは、それからよ」
「ふっ…!」
レッドは、つい鼻で笑ってしまった。
妹とあって、リサを模したコスチュームを纏ってはいるものの、二人とも、リサに比べると迫力がない。
特にヒカルと呼ばれた方の女は、背が低くて、子供のようだ。
隣のホノノだかホノスだかいう女も終始ヘラヘラしていて、リサの突き刺して射抜くような眼力がない。
お返しをするように、レッドも、やれやれという仕草で、
「ナメるなよ?貴様ならともかく、こんなヤツらに俺がやられると思っているのか!」
「ほぅ…それじゃあ、お前は、この二人には余裕で勝てると?」
「当たり前だ!二人まとめてかかってこい!30秒で片付けてやるぜ!」
と豪語するレッド。
「かかれっ!」
というリサの声とともに、ヒカルとホノス、二人の女がレッドに襲いかかる。
女だからといって手加減はしない。
「とうっ!」
と、ヒカルにチョップを見舞い、
「てやぁぁっ!」
の掛け声で、ホノスを豪快に投げ飛ばす。
しかし、見た目のわりにタフな二人も、すぐに起き上がり、また向かってくる。
「とうっ!とりゃぁっ!」
続けて攻撃を繰り出すレッド。
だが、二人も、身長差のわりに息の合ったコンビネーション攻撃を見せ、互角に渡り合う。
「クェェェ!」
ふいにヒカルが奇声を上げ、差し出した五指から伸びた光の糸でレッドの左腕を奪う。
「くっ…!」
さらに、その糸を切断しようと手刀を振り上げた右手にも同じくホノスの放った光の糸が絡みつく。
「ふふっ、捕まえた!」
「かかったわね!」
しめしめと笑った二人は、そのまま二人でレッドの周囲をぐるぐると円を描いて走った。
雁字搦めになり、腕だけでなく身体にまで巻きつく糸。
「は、離せっ!このっ!」
必死にもがくも、細いわりに強度がある二人の糸は千切れるどころか余計に締まり、身動きがとれない。
そして、足を止めた二人が、
「エネルギー吸収!」
と叫ぶと、途端にレッドの身体に痛みが走り、同時にみるみる力が抜けていく。
「ぐわぁぁっ!な、何だ、これは!?」
と声を上げるレッドに対し、その光景を眺めるリサが、
「その糸は、結んだ相手のエネルギーを吸収する。早く逃げないとエネルギーを吸い尽くされてしまうわよ?」
と笑った。
(エ、エネルギーを吸収する…だと…!?)
慌てて糸を千切ろうとするも、既に全身に絡まった糸はすぐにはほどけない。
必死にもがくレッドに、奇声を上げて体当たりを見舞うヒカル。
「ぐわぁっ!」
衝撃に足がもつれ、手をつけないまま転倒するレッド。
その反動で腰のホルスターから頼みのヲタシューターが飛んで地面に転がった。
(し、しまった…!)
慌てて拾いに行こうとするも、足腰に力が入らなくて、うまく立ち上がれない。
ふと、身体に影がかかったので見上げると同時に、ホノスがヒールでレッドの背中を勢いよく踏みつけた。
「ぐわぁぁっ!」
「アハハ!もう終わり?なんや、楽勝やわぁ」
と、関西弁で煽りながら、何度も踏みつけるホノス。
さらにヒカルも加わり、
「絶対、油断しとったよね?ウチのこと、チビやと思って油断したんやろ?」
と、こっちも訛りのある口調で、同じように踏みつける。
「く、くそぉっ…ぐわっ!」
二人の脚を押さえつけられて地面に寝そべるレッド。
そして、そこに浴びせられる親玉からの嘲笑。
「あらあら、何というザマかしら。とっくに大見得を切った30秒はとっくに過ぎたわよ?」
「う、うるさい…!」
「まったく、私を倒すどころか妹たちにすら手も足も出ないなんて…それでよく私にあんな大口を叩けたわね」
「くっ…!」
リサは急に口調を変え、
「もぉ、いけない子ねぇ?勝手にお家を抜け出したりして…探したわよぉ?私のワンちゃん」
「だ、誰がワンちゃんだ…!」
「あらぁ、何を言ってるの?あなたは私のワンちゃんでしょぉ?私の奴隷犬なんだからぁ」
とリサはバカにするように笑った後、ヒカルとホノスの二人に、
「いいわよ。全部、吸い取っちゃって」
と言った。
頷いた二人が、再び声を揃え、
「エネルギー吸収!」
と声高らかに叫ぶ。
「…ぐわぁぁっ!」
エネルギーの吸収が再開され、地面をのたうち回るレッド。
やがて全てのエネルギーを吸い取られ、ヲタレッドは死人のように動かなくなった。
かろうじて息がある程度、もう声を出す力も残っていない。
(リサ様、終わりました)
という顔でリサを見る二人の妹たち。
「よくやったわね。上出来よ」
と二人を労い、満足げに歩み寄るリサは、失神したレッドのマスクをコツコツとつま先で小突いて、
「さぁ、早くお家に帰りましょうねぇ?もう二度と逃げられないように、次から首にリードでもつけておこうかしら。アハハハハ」
と、女王様の目付きで笑った。