欅共和国の罠 ― 捕らわれた男たちの記録 ―

















小説トップ
<番外編>志田愛佳と鈴本美愉に捕まった織田奈那
1.バレてしまった秘密
 欅共和国。
 そこは男尊女卑の真逆をいく女性上位の国で、それを示すように『ヒラテ』をはじめ、統治する権力者も女性ばかり。
 この国において、男性、つまり“男根のある者”は虐げられる運命にあり、それが共通認識となっていたのだが、そんなある日、官邸『欅ハウス』の中で、その根幹を揺るがす事件が起きた。
 まさに前代未聞…この事実が知れれば国民からの非難だけでなく、これまで貫いてきた女性上位というパワーバランスが崩壊し、最悪、国家転覆にも繋がりかねない一大不祥事だった。
 これは、秘密裏に処理されたその事件の一部始終である…。

 ……

 欅ハウスの地下にある拷問部屋。
 普段、捕らえたスパイや国賊を拷問にかけているこの部屋に、この日は女の叫び声が響いた。
「や、やめてよっ…!」
 と、その声の主、織田奈那が叫ぶ。
 それに対し、
「いいから、おとなしくしなよ!」
「暴れないで!」
 と怒鳴る志田愛佳、そして鈴本美輸。
 二人は、仲間である筈の織田奈那の四肢を「X」字に拘束し、
「さぁ…どういうことか説明してもらおうかしら?」
「私たちを納得させるまで、その拘束は外さないよ?」
 と、睨みつけるような厳しい眼を向けた。
「━━━」
 後ろめたさから顔を背ける織田だが、鈴本がそっちへ回り込み、
「ねぇ、説明してって言ってるの!」
「━━━」
「何で…?」
 鈴本の手が織田の股間をそっと撫でると、なぜかそこには、女性の身体にはある筈のないものの感触が━。
「うぅ…」
「何で、こんなものがついてるの?」
「オダナナ、女だよね…?」
 志田が聞く。
「お、女だよ…!女だけど…」
「じゃあ、何で女なのに、オチンチンがついてるの?」
「説明してよ!」
「━━━」


 とうとうバレてしまった。
 織田にとって一生の不覚、それは、まさに、恐れていた事態だった。
 織田がずっと隠していた秘密…それは、実は自身が両性具有、俗にいう“ふたなり”であることだった。
 隠していたのにはワケがある。
 もちろん珍しいものだという自覚はあり、カミングアウトする勇気がなかったのも理由の一つだが、一番は、この国の在り方だ。
 織田自身、潜入に失敗したスパイが拷問にかけられ、その男性器を蹂躙される様を幾度となく見てきた。
 この国における“男根を持つ者”の扱いを知れば、たとえ仲間相手でも、それを打ち明けることは容易ではない。
 事実、そこさえ隠していれば見た目は女だし、実際、女として振る舞ってきて何の支障も無かった。
(誰も疑っていないし、わざわざ言う必要はないか…)
 心は女なのだから、このまま隠し通し、あくまでも女として、引き続き、この国の統治に携わっていくつもりだった。
 しかし、それが、ほんのついさっき、いつものようにコソコソと人目を気にして着替えているところに、忘れ物をした鈴本と、それに付き添った志田がタイミング悪く戻ってきてしまって鉢合わせ…という、よくある日常の一コマによって暴かれてしまった。
 ある筈のない股間の膨らみ。
 それについて二人から詰問され、黙っているうちに、
「ラチがあかない!とにかく来て!」
 と言われ、そのまま地下室に連れ込まれた。
 二人の織田を見る眼が明らかに変わっていた…。


「オダナナさぁ…もしかして男?」
「ち、違うよ…!」
「もしそうだとしたら、今まで、オダナナだけ特別扱いしていたことになっちゃう…」
 志田は憮然とした顔で、
「とにかく脱いでよ。確認するから」
 と言って、織田の服をボタンを外し始める。
「ま、愛佳…待って…!」
 と制止するが、志田の手は止まらず、はだけさせられた服の間から胸が露出した。
 決して大きくはないが、一応、膨らみはある。
「…こっちはちゃんと女だね」
「う〜ん…どーゆーこと?」
 困惑し、顔を見合わせる二人。
 まじまじと見られるのが恥ずかしくて、織田は赤面しながら、
「も、もういいじゃん…!ねぇ、早くボタン留めてよ…!」
 と抗議をするが、志田は聞く耳を貸さず、
「じゃあ、やっぱり、こっちを見るしかないよね?」
 と言って、次は下を脱がしにかかる。
「ちょっ、ちょっとぉ…愛佳ぁ〜…!」
 捕らえた男を拷問する際と同じように、慣れた手つきで脱がしていき、パンティにも躊躇なく手をかける志田。
 そして、とうとう、秘密を隠す最後の防具までもが、あっさりと下ろされた。
「やだぁぁっ…!恥ずかしいよぉ…!」
 顔を背ける織田。
 それは不思議な画だった。
 パッと見では、何も違和感がない。
 胸もあるし、本当に、一人のショートカットの女性でしかないのだが、少し視線を下げれば、否応なしに股間で視線が止まる。
 茂みの中に紛れるように、魚肉ソーセージのような形をした男根が、とってつけたように付いていた。
「ほら、やっぱりついてんじゃん!」
 と、少し興奮気味の志田と対照的に、
「何で?何でオダナナにオチンチンがついてんの?」
 と怪訝そうな顔をする鈴本は、織田本人に対しても、
「ねぇ、何で?」
 と問いかけた。
「そうだよ。この際、正直に言いなよ」
 と志田も質問に加勢し、
「言っとくけど、これ、もし『実は男でした〜』ってオチならマジで大問題だからね?それこそ茜や理佐に知れたら大変なことに…!」
 茜と理佐…仲間内でも特に規律に厳しい守屋茜と渡邉理佐のことだ。
(もし、二人の耳に入ったら…!)
 想像しただけで織田自身も震えてくる。
 仕方なく織田は、自身の特異な身体について、二人に説明した。
 心も身体も女性…ただ、唯一、股間に“男のアレ”がついているだけ━。
 その説明に対し、終始、半信半疑だった二人だが、現にその疑惑の男根は目の前の織田の股間に確かに実在している。
 その現実を照らし合わせ、どうにか納得はしてくれたようだが、あくまでも渋々…そんなところだ。
「ってことは…とりあえず、女は女なんだよね…?」
 と、鈴本が肝心なところを繰り返し確認する。
「女だよ。これはホント!ウソじゃないから!」
 と必死に弁明し、
「ね、ねぇ…みんなには内緒にしてよ…お願いだから…!」
 と、織田は念を押した。
 このことが仲間に知れ渡ることで、気まずさ、後ろめたさ…いろんなものを強いられる気がした。
 一方、鈴本も、こんな形で織田の秘密を知ることとなってしまったが、だからといって、このまま追放したり、刑に処すというのも、どこか気が引けた。
 これまで、この欅共和国をともに支えてきた仲間だし、別に股間のイチモツさえ隠していれば、いつものオダナナに変わりはない。
 そして何より、鈴本は織田が好きだった。
 恋愛感情に近いそのストレートな好意は、時に冷たくあしらわれてスネる時もあったが、とにかく彼女は織田という人間が好きなのだ。
 それゆえに…。
「…うん、分かった。誰にも言わない。愛佳と私だけの秘密にする」
 と鈴本が言うと、織田もホッとした表情をした。…が、そんな矢先、志田が一言、
「…射精は?」
 と聞いた。
「え…?」
 目が点になる織田に、志田は、
「それって射精はできるの?」
「しゃ、射精…?射精は…えっと、その…あの…」
 しどろもどろの織田。
 頬に、みるみる赤みがさす。
 その反応を見て、志田は、すぐに、
(できるんだ…!)
 と確信を持った。
 だが、あえてそれを口にはせず、織田の股間に手を伸ばして、
「ねぇ?このオチンチンって射精できるの?」
 と、もう一度、意地悪な笑みを浮かべて聞いた。
 どうしても本人の口から言わせたい━そんな顔をしている。
 スリスリとモノを撫でてやると、織田は、
「…んっ…!」
 と、小さく息を乱した。
「ねぇ?どっち?」
「い、一応できる…けど…」
「へぇ〜?できるんだぁ…?」
 それを聞き、なぜか怪しげな眼を向ける志田。
 その眼は、日頃、捕らえた男を拷問にかける際に見せるサドの眼に酷似していた。
「そっかぁ…へぇ〜…そういうことねぇ…」
 ニタニタと笑みが隠せない志田の表情。
 その表情に、織田は、ふと嫌な予感を感じた…。

鰹のたたき(塩) ( 2020/06/06(土) 11:51 )