1.増長
「うがぁぁっ…!があぁっ!」
…ポタッ…ポタッ…
汚ならしい断末魔の悲鳴とともに、無情にも搾り取られる最後の数滴。
出始めのように勢いよく飛び出す余力もなく、漏水のように静かに滴り落ちるのみ。
ビクビクと震えた後、死人のように頭(こうべ)を垂れる捕虜の男だが、そんな状態でも容赦なく、
「あれぇ?死んじゃったのぉ?気持ちよすぎて死んじゃったぁ?」
と、萎んで硬度を失ったフニャチンをくすぐって嘲笑う小悪魔な女神、守屋麗奈。
そして、そんな優しい口調とは正反対に、失神した男の髪を掴んで捻り上げ、
「ちょっとぉ…誰が寝ていいって言った…?起きなよ、ほら!まだ終わってないからね」
と振り回す暴虐女王、守屋茜。
この二人の私刑は他のメンバーと比べても明らかに度を越し、日々、捕らえたターゲットを血祭りに上げては、この国の男たちを、
(明日は我が身…)
と恐怖のドン底に陥れていた。
最近、ペアを組んで男を嬲る機会が増え、師弟関係が築かれつつある二人。
茜は統治メンバーの中でもベテランでなおかつ副リーダーという役職があるのに対し、麗奈はまだ新メンバーと認められて一ヶ月ちょっとの新入り。
新入りながら既に数々の性技をマスターしていることから一部では「スーパールーキー」と評されているものの、まだまだ茜と比べればキャリアに天と地ほどの差があり、一見、相容れることも難しそうな間柄だが、たまたま同姓という縁もあってか不思議とウマが合い、今では格差を飛び越えて「ダブル守屋」とひとくくりにして呼ばれるほど、コンビとして定着しつつある。
ともに絶世の美貌を誇る二人だが、その本性は生粋のサディストで、相思相愛、師弟愛、姉妹感…などといえば聞こえはいいが、綺麗な薔薇には棘があるように、ひとたび男を捕らえれば、廃人になるまでいたぶり、高笑いをする魔性の女だ。
その悪名は、やがて敵対している復讐兵団の連中にも伝わり、
「最凶最悪のタッグ」
「コイツらに目をつけられたら終わり」
「捕まったら舌を噛んで死んだ方がまだ楽」
と恐れられ、これだけ畏怖の念を持たれるのは、かつて、この国きってのドSコンビと謳われた「ザ・クール」こと志田愛佳と渡邉理佐、それ以来である。
「ね〜え!起きてよぉ、もっと遊ぼうよぉ♪」
と失神した男の乳首を容赦なく捻り上げる麗奈だが、精巣が枯渇した男は、なかなか目を覚まさない。
「ふん…偉そうなこと言ってたわりに、てんでたいしたことなかったわね」
「そうですね。楽勝でした♪」
呆れる二人。
「手にかけるまでは、
「お前らなんかに屈してたまるか!」
と吠えていたくせに、ちょっと四、五回、連続でヌイてやっただけで虫の息。
最終的には許してくれだの休ませてくれだの泣き言のオンパレードで、むしろ期待ハズレという失望すらある。
「バカな男ね…ただのか弱い女とでも思ってたのかしら?」
と茜は吐き捨てると、麗奈に、
「目を覚ましたら、もう一度いたぶってやりましょ。それまで地下牢にぶちこんでおいて」
「了解です♪」
と後処理を引き受ける麗奈。
そして茜は、戦果の精液を浴びた汗だくの身体を洗い流すため、シャワールームへと消えていった。
その後ろ姿、綺麗な背中のラインに見とれ、ドアが閉まるまでずっと眺めていた麗奈は、
(か弱い女…か)
と、今さっき吐き捨てられた茜の言葉を思いだし、ふと、
(か弱い茜さんって、どんな感じなんだろ…?やっぱり、可愛さがもっと増すのかな…?)
と、興味を覚え、その瞬間、何やらいいことを思いついたようにニヤリと笑った。
……
シャワーを浴びて出てきた茜。
エレガントなバスローブにヘアターバンを巻いたその姿は、まるでどこぞのセレブ。
籐椅子に腰かけると、ここからは、いつもの日課が時間。
まず腕、ふくらはぎを揉みほぐしてむくみを取り除き、美容液を塗って徹底したスキンケア。
男たちに恐れられる存在でありながら、美への探求にも人一倍、気を配っているのだ。
そんな中、麗奈が寄ってきて、
「茜さん。果実酢のドリンクをお持ちしました。お風呂上がりにいかがですか?」
と、トレイに乗せて運んできたショットグラスを差し出した。
「果実酢のドリンク?」
と、その響きに興味を示す茜。
グラスをまじまじと眺めて、
「珍しい色ね。新製品?」
「はい。最近、街で見つけて買いました。美容に良いそうですよ。これはイチゴ風味のものですが、どうですか?」
「へぇ…♪美味しそうね。いただくわ♪」
美容に関するモノには目がない茜。
上機嫌にグラスを手に取り、そのまま一気に飲み干す。
少しドキドキしながら見守る麗奈に、
「…うん、口当たりもスッキリしてて美味しいわ。ありがとう♪」
と笑顔を見せる茜。
空になって返されたグラスを見て、ホッとする麗奈。
彼女が気にしたのは口に合うかどうかより、飲んでくれるかどうか…。
そそくさと片付けに退がっていく麗奈。
やがて、一通りの自分磨きを終え、くつろぐ茜は、だんだんウトウトし始め、そのまま眠ってしまった。
そこに足音を忍ばせて戻ってきた麗奈…。
そっと寝顔を覗いただけで、
(か、可愛い…♪)
と、胸を射抜かれる。
捕虜の男を責めている時の悦に入った笑みはすっかり影を潜め、まったく別人の可愛らしい寝顔だ。
スヤスヤ寝息を立て、これだけ無遠慮に近寄っても目を覚ます様子は一切ない。
ドリンクに混ぜた睡眠薬の効果は抜群の模様。
眠る茜を前に、ニヤリと不敵な笑みを見せる麗奈。
その手には、奴隷の調教に使うアイマスクと手錠が握られていた…!
(つづく)