田村真佑のその後… (プロローグ)
「ほんでなぁ、そん時になぁ、聖来とかっきーでなぁ」
「うん…うん…」
電話口から一方的に喋りまくる早川聖来。
そして、その他愛もない話を聞き役に徹し、相槌を打ちながら延々と付き合う田村真佑。
長電話は深夜にまで及び、やがて、
「え!?もうこんな時間!?…ごめんっ、また喋りすぎたわぁ」
と我に返って反省する聖来に対し、
「ううん。今日もいろんな話が聞けて楽しかったよ。また聞かせてね」
と嫌な顔せずに返す真佑。
そして、最後は、いつものやり取り。
「なぁ、真佑…?聖来、早く真佑に会いたい…」
「うん。私も」
「ホンマ…?聖来、待ってるからな…?早く帰ってきてな?絶対やで…?」
「分かった。ありがとう」
「絶対な…?」
「うん。約束する。私も、もうすぐだから」
「分かった。…じゃあ、おやすみ」
「は〜い、おやすみぃ」
ようやく耳から離すスマホ。
通話時間は1時間42分。…長い。
こうして、やや重めの束縛系彼女のような聖来との長電話は終わった。
田村真佑。
新米捜査官として『乃木坂46』に加入された彼女だが、そこに待っていたのは非道な男たちの狡猾な罠「捜査官狩り」の魔の手だった。
忘れもしないあの日…。
遠藤さくら、清宮レイを除く同期9人が次々と山間の廃校に誘い出され、袋の鼠となった。
そして、そこに放たれた獰猛なハンターたち。
追う立場と追われる立場が逆転した恐怖の廃校サバイバルは、まず賀喜遥香、続いて早川聖来が順にハンターの餌食になり、第三の被害者が真佑だった。
最年少の筒井あやめを庇い、身代わりとなって身体を蹂躙され、最後は第四の被害者、柴田柚菜とともに乱交で姦された。
その時のことは思い出したくない。
凌辱されたことはもちろんのこと、その時の自分の行動に嫌気がさすからだ。
同期の中でも最年長、大人な真佑は、日頃の欲求不満が重ねり、そんな状況にもかかわらず、いつのまにか獣たちとの性交を楽しんでしまった。
性犯罪を取り締まる役目を担いながら、レイプ魔を憎むどころか、ちゃっかりそれを自身の憂さ晴らしに変えてしまったのだ。
(あの時の私は、どうかしていた…!)
そう思うしかない。
(もしかして催眠術でもかけられていたんじゃ…?)
そう言い聞かせないと、この自己嫌悪は永遠に残るだろう。
その後、援軍の到着で救出された新米たち。
被害に遭った賀喜、早川、柴田、そして真佑の四人は病院に搬送され、療養期間を経て、戦線復帰に向けたリハビリが始まった。
当初は四人同時に開始だった。
暗黙の了解か、はたまた、それぞれが黒歴史として記憶から抹消したからか、廃校で起きた悪夢は全てタブーとされ、心機一転、過去を忘れて復帰に向けて取り組んだ四人。
まずメドが立ったのは賀喜、そして早川。
やがて柴田も復帰にGoサインが出て、残るは真佑一人…。
他の三人に比べて、特段、被害状況が酷かったワケでもなく、リハビリで大きく遅れをとったワケでもない。
差が出た理由はやはり精神的なもの、仲間に対する後ろめたさ。
それが一人だけ回復のスピードを鈍化させた。
他の三人が次々に戦線復帰した今も、真佑はまだリハビリに通っている。
既に病院は退院したので、今は自宅療養。
普通の生活に戻りながら、週に二回のリハビリと、週に一回のカウンセリングを受けている。
(私も早く復帰しないと…!早く吹っ切らないと…!)
と焦る真佑だが、そんな彼女によく電話をかけてくるのが先に復帰した早川聖来だ。
訓練生時代から大親友の二人。
聖来は、その日の進展や自身の活躍を楽しそうに話し、きまって最後は、
「早く真佑と一緒にペア組んで行動したいわぁ…」
と本人以上に悔しそうにして言う。
それが親友の復帰を待ちわびる聖来なりのエールだろう。
その言葉を糧に復帰を目指す真佑。
もちろん一日でも早く復帰したいとは思っている。
思ってはいるのだが…。
聖来との長電話を終え、スマホを置いた真佑。
ふぅ…と溜め息ひとつ、ぱたりとベッドに横になる。
本来なら、このまま眠りにつくところだが、チラッと時計を見て、
(少しぐらいなら…)
と、まず、枕元のリモコンで部屋の電気を常夜灯にする。
一人暮らしの部屋が薄暗いムーディーな部屋に変わり、やがて、
「んっ、んっ…♪」
と甘い吐息が漏れ始める。
海老のように背中を丸めた真佑の指は股ぐらにあった。
やめられない性欲の発散…オナニーである…。
入院中は同室の仲間や深夜の見回りがネックで出来なかった。
それを、先日、退院して自宅療養に切り替わってからは、プライベート空間を取り戻した反動で、二日に一回…いや、時に二日連続でする時もあるから三日に二回ぐらいのペースでしている。
(こういうところがダメなの…!分かってる…分かってるけど…!)
この生まれつきの性欲の強さに付け入られて、あんな恥をかいたというのに…。
自己嫌悪も葛藤も、人一倍強い性欲には勝てない。
気付けば、モゾモゾとパンティの中に指を突っ込み、行き先を阻む恥毛の芝をすり抜けて熱い泉へ一直線。
クチュッ…!クチュ、クチュ…!
「んはぁっ…♪あんっ…♪」
指先にまとわりつく粘液…生温かい秘肉…。
そこを一心不乱に弄くるうちに、空いたもう一方の手は胸をがしがしと揉んでいた。
没頭する自慰行為。
「んんっ…はぁっ、あぁっ…」
(き、気持ちいい…♪)
集合住宅、隣室にも入居者がいる状況で、アニメ声の喘ぎを必死に堪える真佑。
やがて、そのまま指の動きを早め、小さく、
「イ、イクっ…!」
と枕に埋めた口から声を上げ、ピクピクと身体を震わせた。
しばしの余韻…そして、ようやく枕元のティッシュを取り、サッと濡れた股ぐらを拭き上げる。
「んっ…♪」
後処理の筈が心地よい刺激…。
そしてまた、気付けば、
シュッ…シュッ…
「あんっ…♪あんっ…♪」
と、ふやけたティッシュで固くなった陰核をソフトタッチで擦り、快楽を得る始末。
(ダ、ダメ…何で、私って、こんなに性欲が強いの…?)
答えも出ないまま、さらに二度、絶頂を愉しんだ真佑。
そのおかげで心地よく眠れそうなのはいいことだが、この弱点を克服しないと、またいつ快楽責めで付け入られるか分からない…。
(禁欲…!禁欲しなきゃ…!)
果たして、それが正しい答えなのかも分からないまま、眠りにつく真佑。
性欲の強い捜査官…果たして改善策はあるのだろうか?
……
翌朝。
ゆうべの自慰行為のおかげか、目覚めの良い真佑。
午前中に出向いたカウンセリングでは、
「もう精神面での不安はないと言っていいでしょう。あとは上司の方とご相談ください」
と言われ、午後から受けたリハビリでも、
「もう大丈夫でしょう。体力も戻ってきてるし、普段通りに過ごして問題ないと思います」
と言われた。
(よかった…!)
と、そこは素直に安堵し、早速、上司の秋元真夏にその旨を伝える。
「待ってたよ!」
と、苦境の中、小さな光明に声を弾ませる真夏。
それが伝わって真佑も少し照れ臭くなったが、すぐに表情を引き締め、
「それで、どうしましょう?」
「そりゃあ、もう、できれば明日から…と言いたいところだけど、明日はゆっくり休んで、明後日から復帰ということでどうかしら?」
「いいんですか?私は明日からでも全然…!」
「いや、大丈夫」
と勢い込む真佑をたしなめるように言った真夏は、続けて、
「私は真佑に期待してるの。救世主になってくれると思ってる。そう思ってるからこそ、真佑には万全の状態で戻ってきてほしいの。焦っちゃ、元の子もないから」
「…分かりました。お気遣い、ありがとうございます」
と、電話にもかかわらず、ペコッと一礼をする真佑。
「じゃあ、待ってるね。みんなには私から伝えておく。喜ぶと思うよ、聖来なんかは特に」
「でしょうね。彼女には、すぐに追いつくと言っていたと伝えてください」
と言って電話を切った真佑。
復帰は明後日。
少し仲間から遅れをとったが、ようやくといったところか。
この日の夜、自慰は我慢をした。…いや、正確には昨夜したのを最後にしないといけない。
これからしばらく…少なくとも、この抗争の火が鎮火するまではお預けである。
(復帰するんだから、そこはちゃんと割り切らないと…!)
溜まった性欲の隙をつかれ、自ら快楽に溺れてしまった黒歴史。
あんな醜態は二度と御免だ。
(もう、あの時の弱い私じゃない…!私は捜査官…それも、性犯罪を憎む組織の一員なんだ…!)
その自覚を持てば自身の性欲なんて蚊帳の外。
もし、次、同じ場面に遭遇したら、その時は、たとえ刺し違えてでも『乃木坂46』の一員としてのプライドを、女の尊厳を守る…!
もう二度と快楽に流されたりはしない…!
そんな決意をみなぎらせ、真佑は、来たる復帰初日を見据えていた。
(つづく)