伊藤理々杏のその後… (中元ひめクリニック 問診)
「真夏さん!妙な噂を耳にしました!」
本部に戻るなり、勢い込んで進展を話す梅澤。
報告を聞いた真夏は、眉をひそめて、
「…催眠術?」
「えぇ。おそらく柴崎の指示だと思いますが、柴崎に恩がある私立探偵が数人がかりで、都内の催眠療法の権威を片っ端から調べ回っているそうです」
「いったい何のために?」
首を傾げる真夏。
ああだこうだと議論になる中、理々杏は、一歩退いて別のことを考えていた。
(そうだ…!催眠術だ…!)
催眠術があれば、あの日の記憶を消すことが出来るかもしれない。
それに、元々、この女の身体に男根を植えつけられたのも、山下と梅澤をショタコン痴女化させて操ったのも、すべて催眠術の仕業。
(催眠術の記憶を、催眠術で打ち消せばいいんだ…!)
と、そんなことを夢中で考えていた時。
「…りあ!…理々杏ってば!」
「え…?あ…!な、何?」
「もう!しっかりしてよ!」
梅澤は肩をすくめて、
「どうしたの?最近…様子、変だよ?」
「そ、そんなことないよ…!ごめん…!」
慌てて取り繕う理々杏。
真夏も心配して、
「理々杏、どこか具合でも悪い?少し休む?」
「い、いえ…大丈夫です…」
顔を真っ赤にして俯く理々杏。
「分かった。捜査の参考にするわ。ありがとう」
と、真夏に労われ、手柄を得た三人は一時休息となった。
デスクに戻って一息つく梅澤や阪口を尻目に、そそくさと部屋を出て、一目散にトイレに駆け込む理々杏。
用を足すワケもなく、個室に閉じ籠もると、早速、スマホを取り出し、検索を始める。
検索ワードは、もちろん、
<都内 催眠療法>
である。
かなりの数がヒットした。
そこからさらに、相談しやすいように院長が女性であるとか、目立たないように繁華街ではなく閑静な立地とか、いろいろと条件を足していくうち、残った一軒のクリニックに目が留まった。
名前は『中元ひめクリニック』。
理々杏の求める条件に見事に当てはまり、そう遠くもなく、腕も確かだとクチコミがある。
(ここだ…!ここしかない…!)
そんな妙な確信を得た理々杏は、個室トイレの中で声を震わせながら、その『中元ひめクリニック』に電話をかけ、予約を取った。
人気のクリニックということで、いつ都合をつけれるか不安だったが、幸い、運よくキャンセルが出て空いたということで、明日の午前の最後の枠で予約が取れた。
「では、伊藤様。明日ですね、お待ちしております」
と丁寧な女性の声。
果たして思い描く通りにいくか分からない。
素人の理々杏にとって、催眠療法というものが、いったいどれほどのものか分からないからだ。
だが、仮に無理だったとしても、こうして一人で悶々としているよりかは気休めになるだろう。
(忘れることが出来ればいいけど…)
と理々杏は期待し、用も足さずにずっと居座った個室を後にした。
そして翌日。
理々杏は、無理を言って休暇を貰い、予約した時間に『中元ひめクリニック』を訪ねた。
最寄駅から徒歩数分、真新しい洒落た建物だった。
中に入ると、受付の爽やかな男性が丁寧に挨拶をしてくれた。
名を告げると、
「お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」
と待ち時間ゼロで奥の診療室に通された。
(何だろ…緊張してきちゃった…)
と、少しそわそわし始める理々杏。
案内された部屋に入り、このクリニックの院長、中元日芽香と対面した。
ホームページの隅に載っていたプロフィール画像に比べて、若く、そして顔立ちも少し幼く見えた。
俗にいう童顔という部類だろう。
安心させるように微笑む笑顔にエクボが出来る。
「では、伊藤様。今日は、どういったお悩みで?」
「じ、実は…どうしても忘れたいことがあって…」
「なるほどぉ…」
中元女医は頷いて、
「そういうお客様、けっこう多いんですよ。嫌な思い出を催眠術で忘れさせてほしいっていう方」
「で、出来ますか…?」
「もちろん出来ますよ。ただ…」
「ただ…?」
「そのためには、その忘れたい悩みをまず私にお話していただかないといけません。でないと、どの記憶を忘れ去りたいのかが分かりませんからね。…それは可能ですか?」
「━━━」
顔を赤らめて黙る理々杏。
それもその筈。
男根を股間につけられて、それを仲間に嬲られ、何度も絶頂させられた記憶…などと口が割けても言えない。
今、思い出しただけでも恥ずかしいのに、まして、それを自分の口で他人に説明するなど、もっての他だ。
(ど、どうしよう…!)
ここまで来て、肝心の相談内容を口にすることが出来ない。
迷っていると、中元女医はクスッと笑って、
「どうやら、あまり人に聞かれたくない思い出のようですね。…大丈夫、嫌な思い出の一つや二つ、誰にでもあることです」
「━━━」
「じゃあ、私の手の平を見てください」
中元女医は、突然、そう言って理々杏の目の前に手の平をかざし、ふいに開いた手の平を握り、指を鳴らした。
その瞬間、力が抜け、椅子に座っていた理々杏の小さな身体は全体重を背もたれに預け、バタンと倒れた。
(わぁっ…!)
と、思わず悲鳴を上げた。が、声が出なかった。
(…え?な、何これ…?)
視界はそのまま、聴覚もそのまま。
背もたれの柔らかい感触も確かにあるが、なぜか身体が動かせず、声も出ない。
(ど、どういうこと…?お、起き上がれない…!)
そして声が出ないまま、理々杏はハッとした表情をした。
真上で微笑む日芽香の笑顔が、それまでの人の好さそうな柔和な笑みから、徐々に、妖しさと好奇に満ち始めたからだ。
「私の経験上、相談内容に口ごもる女性の悩みは、だいたい性に関することです。知らない男の人に襲われたとか、好きでもない男の人と関係を持ってしまったとか…どうやら貴女も、そういった類のようですね?」
「━━━」
「大丈夫。恥ずかしがらなくても、催眠術で聞き出してあげます」
と、日芽香は、再び理々杏の眼前に手の平をかざし、
「ふふっ…さぁて、可愛い顔して、いったいどんな恥ずかしい過去があるのかしら?さぞかし言いにくいことなんでしょうね。ぜひ聞きたいわ」
(い、いやっ…!)
「いい?今から私が3つ数えると、あなたは、忘れたいその悩みを、恥ずかしげもなく、自らの口で本音を私に打ち明ける。そして、私がいいと言うまで、その椅子から立ち上がれない。…分かった?」
(…!?)
「いくわよ?…ひとつ…ふたつ…みっつ…!」
そして、3カウントが終わった瞬間…。
「ボ、ボクは…」
(…!?)
その耳に、確かに聞こえる自身の声。
愕然として目が点の理々杏に対し、日芽香は笑って、
「あらあら。あなた、自分のことを『ボク』って呼ぶの?可愛いわねぇ♪」
と、ご満悦だ。
「ボクは捜査官で…」
(ウ、ウソ…!?口が勝手に…!)
「その日、同僚と一緒に、ある屋敷に潜入したんだ。そこで…」
(ちょ、ちょっと…!)
自分の意思ではなく、勝手に口が言葉を発してゆく。
慌てて手足を揺すろうとするも、なぜか急に鉛のように重く、びくともしない。
(な、何これ…!?これが催眠術…?ね、ねぇ…ま、待って…!)
自らの話を遮ろうとするも、そちらの声は一向に出ない。
なおも話は続き、
「捕らわれたボクは股間にオチンチンが生えるという催眠術をかけられてしまい…」
(や、やだっ!)
「それを同じく催眠術で操られた仲間の手でシコシコされたり、舐められたりして…」
(い、言うなぁっ!)
「最後は、そのオチンチンを仲間のオマンコに挿れて、そのまま中で…」
(や、やめろぉぉっ!)
意に反して、あの日の出来事を事細かに話す理々杏の口。
「へぇ〜…うんうん、なるほどねぇ」
理々杏の話を相槌を打って聞く日芽香。
聞いてるうちに、日芽香の表情がみるみる興奮し、薄紅色に染まっていく。
思った以上に過激な性体験だったらしく、なおも興味津々で、
「それで?それでどうなったの?その時はどんな気分だったのかしら?」
と詳細を根掘り葉掘り聞き出そうとしてくる日芽香。
その問いに対しても、意思とは関係なく、スラスラと答えてしまう理々杏。
事の顛末を聞き終えた後、日芽香は一人で納得しながら、
「なるほどねぇ。じゃあ、要するに、その時の快感が忘れられなくて、もう一度、味わいたいってことね?」
(…!?)
「はい、そうです…」
(ち、違うっ…!そっちじゃない…!)
「つまり、また、その時みたいにオチンチンを生やしてほしいのね?」
「はい…」
(違う!ボクは、全部、忘れたいだけだ!ねぇ!違うってばぁっ…!)
必死に否定しようと叫んでも、その声は脳内に虚しく響くだけで、日芽香には届かない。
(な、何で…?)
本当に忘れたい一心だった。…いや、その筈だ。
さっき日芽香は、これは、本音を口に出す催眠だと言っていた。
(も、もしかして、本音はそっちを求めてるってこと…!?)
自身の中の食い違いに戸惑う理々杏。
「分かった。ちょっと待ってなさい」
日芽香は、そう言い残し、スッと裏へ消えていった。
(くっ…!)
今のうちだと、必死に手足に力を込める理々杏。
(や、やっぱりやめよう…!何か怪しい…!それに、あの先生もおかしい…!)
と今さら気づいても後の祭り。
いくら力を込めても、だらんと椅子に沈んだ身体はぴくりとも動かず、起き上がれない。
そして…。
「ほら、こんなのでどうかしら?私の愛用してるモノなんだけど」
(…!!)
笑みを浮かべて戻ってきた日芽香の手には黒光りするペニスバンドが握られていた。
本物が忠実に再現され、太くエラの張ったカリに加え、根元には睾丸を模した膨らみまである。
目を奪われ、思わず、
(す、すごい…!)
と思ってしまう理々杏。
すると、その感想が反映されたのか、
「す、すごい…!は、早く…早く、そのオチンチンをボクに…!」
と口が勝手に動き、途端にかァッと赤面する理々杏。
「まったく…欲しがり屋さんなんだから」
と日芽香は笑みを浮かべながら、まず、無抵抗の理々杏の服を一枚ずつ丁寧に脱がし始めた。
シャツを剥ぎ取れば、白い肌と小柄のわりに大きな谷間が露出し、ロングスカートをずり下ろせば、むっちりとした太ももが露わになった。
(や、やだよぉっ…!)
と恥じらいつつ、もはや視線は疑似男根に釘付けだ。
そのまま、そのペニスバンドを純白のパンティの上から穿かされ、腰のベルトを締めて、しっかりと股間に固定される。
少し目線を落とせば、股ぐらにそびえ立つ男根…否が応にも、あの時を思い出す。
そして、いよいよ…。
「さぁ、私の手の平を見て?」
日芽香の手が、理々杏の顔を覆う。
(い、いやっ…!)
「ふふっ…心の準備はいい?今から私が3つ数えると、その股間のペニスバンドが本物のオチンチンになる。それも、ただのオチンチンじゃない。思春期の男の子みたいに、シコりたくてシコりたくてたまらないぐらいの若くて元気なオチンチンよ」
と日芽香は言って、
「さぁ、行くわよ?…ひとつ…ふたつ…」
(ダ、ダメぇっ…!)
いよいよ待望の、耳元で告げられるカウントダウン。
嫌がりつつ、徐々に高揚し始めていることも否めない理々杏。
あの日を境に、ひそかに思いを馳せ続けていた男根の感覚が、いよいよ股間に宿り、今ここに甦る…!
(つづく)