伊藤理々杏のその後… (プロローグ)
「よし。行くよ!」
「オッケー!」
元気よく本部を飛び出してゆく梅澤美波と、それに続く阪口珠美。
そこに、一足遅れて、
「あ…ま、待ってっ!ボクも…!」
と続く伊藤理々杏。
急ぎ足で後を追いながら、ちらちらと二人の背中に目をやる。
いや、正確には、阪口ではなく梅澤の背中に、だ。
新たにチームを組み、聞き込みに出向く三人。
しかし、張り切る梅澤と阪口をよそに、理々杏の表情だけが妙に固い。…が、それもその筈。
いくら身体が元気になり、自慢の体術のキレが戻っても、彼女の頭には、まだ今も“あの夜の宴”の記憶が残っているのだから…。
梅澤と同様、一時は凌辱被害に遭い、生き地獄を経験するも、持ち前の正義感を糧に、見事に戦線復帰を遂げた理々杏。
同じく梅澤も復帰し、再び同期で躍動する日々を過ごしているが、一見、同じ境遇に見える二人も、実際は“傷の負い方”が違った。
女体拷問で快楽責めに屈した梅澤に対し、理々杏を屈服させたのは女体拷問ではなく男根拷問…。
ボクっ娘の理々杏を逆手にとり、股間に装着した張型を催眠術で本物の男性器と思い込まされ、本来、女が経験することのない射精する男の快楽を何度も何度も味わわされたのだ。
そして、理々杏にその快楽を味わわせたのは、何を隠そう、同期の山下美月、そして梅澤美波だ。
あの時、山下と梅澤にも催眠術がかけられていた。
よって梅澤は、そのことを覚えていない。
だから、これまでと変わらず、同期の仲間として接することができるのだろうが、理々杏は違う。
当の理々杏には、梅澤の手で扱かれて射精させられた記憶も、梅澤と繋がったことも、そして梅澤の身体を一心不乱に突き上げ、その締まりの中で果てたことも、全て覚えているからだ。
よって、かなり気まずい。
向こうは覚えていないのだから気にしなければ終わる話だが、理々杏の脳には、今なお、同期の二人に疑似男根を気が狂うほど嬲られた逆レイプの記憶が深く刻まれている。
そして、その光景を思い出すたび、付随して、あの時、何度も味わった射精の快感まで思い出してしまうのだ。
あの、体内から魂が出ていってしまうような感覚…。
それ以来、当事者である梅澤の姿を見ると、きまって、あの快感を思い出し、そして欲しては、すぐに、
(ダ、ダメだ…!何を考えてるんだ、ボクは…!)
と我に返り、
(ウメは仲間だ!同期の親友だ!変なことを考えるな!)
と、自分を叱ることを繰り返す理々杏。
それが、ここ最近、毎日と続く。
昨日も、そして今日も…。
梅澤が近くにいるかぎり、理々杏は、あの夜のことを何度も思い出してしまうのだった。
「…りあ?…理々杏ッ!」
「ふぇ…?」
名前を呼ばれていることに気付き、慌てて振り向く。
「なに、ぼーっとしてんの?早く降りてくれないと、私たちが出れないじゃん!」
と後ろから梅澤に言われてようやく、自分がエレベーターの一番前に陣取っていたことを思い出した。
「あ…ご、ごめん…!」
「もう…!どうしたの?最近。何か考え事でもあんの?」
「い、いや…!考え事なんて何もっ…!」
慌てて、つい声を張り上げる理々杏。
「ふーん。何もないならいいけどさ」
と、呆れる梅澤。
そんな梅澤を、なおもチラチラと盗み見しては、
(ダメだ…!だんだん仕事が手につかなくなってきた…忘れろ…!忘れなきゃ…!)
と、常に自らを叱りつけ、何とか欲を押し殺す理々杏。
だが、その意に反し、鮮明に残る記憶のせいで、良からぬ下心がどんどん募っていく。
(くっ…は、早く吹っ切らないと…ウ、ウメとの関係が…!そ、それに、仕事に支障も…!いったい、どうすれば…?)
理々杏が、今、求めているもの…それは“この記憶を消す方法”である。
記憶から消せば、二度とこの妙なジレンマにとらわれることはない。
だが、果たして、そんなものがこの世の中にあるのだろうか…?