白石は、指示された場所、第一倉庫に到着した。
　奥に進むと、柴崎が待っていた。
「本当に一人だろうね？」
　柴崎は警戒するような眼を向ける。
　白石は頷いて、
「三人は？」
「奥にいる」
「信用できない。確認させなさい」
　と白石が言うと、柴�ｱは肩をすくめて、
「この奥だ。自分の目で見てきたまえ」
　と指差した。
　柴�ｱの動き、そして周囲に警戒しながら、奥へ進む白石。
　覗き込むと、積まれた資材の陰に人影が見えた。
「…まあやっ！」
　と声をかけると、後ろ手に縛られて猿轡をされた和田が振り返り、目が合う。
　無事だった。…が、そこには和田しかいない。
　白石は、すぐに柴�ｱに目を向け、
「ちょっと待って…！？あとの二人は…！？」
　と問うと、柴�ｱは笑って、
「心配するな。中田くんは隣の第二倉庫、樋口くんはその向かいの第三倉庫にいる。二人とも無事だよ」
　と言った。
(用心して人質を分散させたのね…！)
　と、白石は思ったが、実際は━。
「さぁ、約束通り、花田組長を解放してもらおうか」
　と柴�ｱが言うので、白石は、
「まだ信用できないわ。残る花奈と日奈も無事に解放されて、人質三人に私を含めた四人の帰り道の安全が保証されないと、花田は釈放できない！」
　と、強気に出た。
　人質は、今、目の前にいる和田を含めて三人。
　それを盾にして渋られるかと思ったが、柴�ｱは、なぜかニヤリと笑って、
「…いいだろう」
　と言って、和田を指差し、
「彼女を連れて、ついてきたまえ。次は中田くんのところへ案内しよう」
　と笑みを浮かべながら言った。
(な、何が可笑しいの…？)
　白石は、なぜか薄ら笑いを浮かべる柴�ｱに気味の悪さを覚えながら、すぐに和田の猿轡を外し、そして手を縛るロープをほどいてやった。
「まあやっ！大丈夫！？」
　と声をかける白石。…と、次の瞬間！

　ドスッ…！

　と鈍い音がして、白石の身体がぐらりと揺れた。
「ま、まあや…！な、何を…？」
「━━━」
　空手有段者から不意打ちで正拳突きを貰い、顔をしかめ、みぞおちを押さえながら倒れ込む白石。
　立ち上がろうとするが、痛みで腕に力が入らず、身体を支えられない。
「ま、まあや…！」
　声をかける白石に対し、気まずそうに、そっと目を反らす和田。
「き、貴様…！まあやに…何を…！」
　と、柴�ｱを睨む白石だが、腹パンのダメージが大きく、その眼の迫力は半減している。
　柴�ｱは、その質問には答えず、ゆっくり白石に近づくと、黙って手刀を一発、長い髪に隠れた延髄へ入れた。
　気絶し、ドサッ…と音を立てて崩れる白石の身体。
　乱れた長髪と、タイトスカートから覗く白い美脚を見下ろし、
「ククク…さすがの白石くんも、助けた人質が裏切り者だとは見破れなかったようだな」
　と、勝ち誇った笑みを浮かべる柴�ｱ。
　たちまち部下が車で乗りつけ、気絶した白石の身体を後部座席に押し込む。
　最後の去り際、柴�ｱは、立ち尽くす和田に目をやり、
「なかなかの名演技だったな。おかげで作戦は大成功だ。ご苦労！」
「━━━」
「もう君に頼む用はないよ。おとなしく大好きの彼氏のところへ帰って愛し合うがいい。大将を裏切ってまで守った純愛だ。君の幸せを願っているよ」
　柴�ｱは、強烈な皮肉を突きつけ、車に乗り込んだ。
　急発進して走り去る車。
　運転する部下が、ルームミラーで遠ざかる倉庫を見ながら、
「いいんですか？あの女、始末しなくて」
「構わんよ。放っておいても、あの女は、もう、捜査本部にも戻れない。仲間に会わせる顔がないんだよ。何てったって、とうとう大将まで裏切った超Ａ級戦犯だからな。ククク…」
　笑みを浮かべる柴�ｱ。
　あの倉庫街にいたのは自分と和田の二人だけ。
　中田も樋口もいなければ、花田を釈放させて助け船を出す気など毛頭ない。
　全ては白石を捕らえるための罠だったのだ。
　そして、その罠にまんまと嵌まり、とうとう敵の手に落ちた「乃木坂４６」の将、白石麻衣。
　後部座席へ振り返り、横たわる白石の身体を舐め回すように眺めた柴�ｱは、改めて、その獲物の質に胸が躍った。
　顔、身体、ともにＡランク。…いや、Ｓランクといってもいい。
　それでいて気丈な女捜査官、それも「乃木坂４６」の指揮官という肩書き付き、その高慢なステータスは相手にとって不足はない。
(さぁ、どうやって堕とそうか…！)
　と考えるだけでＳ心に火がつき、思わず笑みがこぼれる。
　起きる気配のないまま、どこかへ運ばれる白石。

　とうとう彼女にも性拷問の魔の手が迫るっ！
　白石麻衣、絶体絶命っ！