乃木坂抗争 ― 辱しめられた女たちの記録 ―




























































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第三部 第一章・山下美月、再び…
3.悪夢の再来
 山下美月。
 つい先日まで、性犯罪撲滅組織「乃木坂46」の捜査官だった女性。
 しかし、あの日━。
 潜入に失敗して捕らえられ、媚薬を投与されて凌辱を受けた末、捕虜となり、女としての地獄を味わった。
 そんな忌まわしい記憶は、救出された後もずっと頭に残り、上司の桜井玲香が斡旋してくれたリハビリ施設に入ってからも、トラウマとなって自身を苦しめた。
 今でも、たまに、あの日のことが夢に出てきては悲鳴を上げて飛び起きることがあるほどだ。
 あまりの恐怖と絶望に一時は心も折れ、生きていく希望すら捨てかけた時期もあったが、桜井玲香をはじめ、秋元真夏、松村沙友理ら、先輩からの献身的なサポートもあったし、向井葉月、阪口珠美、佐藤楓といった同期の仲間からも励ましを貰い、少しずつではあるが克服し、社会復帰へ向けて確かな歩みを進めていた。
 この日も、美月は、午前中のリハビリのメニューを難なくこなし、歳の近い職員と一緒に昼食をとった。
 そして食後、午後のメニューに備えて休んでいた矢先に、突如、白い煙が視界を覆った。
 鳴り響く火災報知器、そして職員たちの誘導の声。
 美月は、訳も分からず、言われたまま、煙を払いながら階段を降り、外へ出た。
 そこでようやく火事だと分かった。が、今から思えば少し妙な火事だった。
 裏のゴミ捨て場からは炎を噴き上がり、火柱とともに黒い煙が上がっているのに対し、建物から出ている煙は何故か白みがかっていたし、何より、建物の方には炎が見当たらなかった。
 そのアンバランスさが妙に気になったのは覚えているが、不思議と、その後から記憶がない。
 確か、ふいに背後からハンカチで口元を押さえられて━。

 ……

 それから、どれぐらい経ったのか。
 耳をつんざく大きな音量で目が覚めた。が、視界は暗い。
 耳元で流れる知らない曲。
 ヘッドホンを装着されていると気付くのに、そう時間はかからなかった。
(う、うるさいんだけど…!)
 爆音のヘッドホンを外そうとして、そこでようやく、両手両足が拘束されていること、そして視界が暗いのも目隠しをされているせいだと気付いた。
 手が使えないせいでヘッドホンを外すことが出来ず、おかげで興味のない曲をずっと聞いていなければならない。
 耳が痛くなる。
 オペラ調の少し暗めのクラシックで、見えない視界も相まって、妙な緊張感がある。
(…!!)
 ふいに、誰かの手が髪に触れた。
「きゃっ!…だ、誰っ!?」
 慌てて頭を振るって声を上げる。が、ヘッドホンのせいで相手の声は何も聞こえない。
 その手は、美月の髪を掻き分け、うなじに指先を立てて這い回る。
「やっ、んんっ…く、くすぐったい…や、やめて!」
 悶えて身体を揺する美月。
 うなじから耳、顎の下、首筋へと這い伝う指。
 さらに、美月が目隠しをしているのをいいことに、一本が二本、そして二本が四本とみるみる増殖した。
(一人じゃない…!何人かいる…!?)
 そして…。
「あっ!い、いやっ、ダメっ…!」
 ふいに一本の手が、美月の着ているシャツを捲り上げた。
 外気に触れるへそ、お腹、そして胸。
 そして間髪いれずにブラも引っ張り下ろされ、乳房とその先端が外気に触れたその瞬間、美月の中で、あの悪夢がフラッシュバックした。
 テーブルの上に大の字で磔にされ、衆人環視の中で卑猥な男たちに身体をネチネチといたぶられたあの忌まわしい記憶。
 そして、それと今、まったく同じ状況だ。
(ま、まさか…また…?)
「いやぁ!…いやぁぁっ!」
 突然、取り乱したように暴れ出す美月。
 しかし、拘束は固く、思うように動けない。
 絶望感を助長するように、耳元で延々と流れるオペラ。
 視覚に加えて聴覚まで塞がれているせいで恐怖が倍増し、思わず、
「いやぁぁ!は、離してっ!」
 と、大きく叫び声を上げる美月だが、見えないところから襲いかかる無数の指は、乳房、腋、下腹部、脇腹と、美月の素肌が露出しているところを目掛けて伸びてくる。
「んんっ!やぁっ!はぁっ…い、いやぁ!んあぁぁっ!」
 爆音のヘッドホンをつけられているせいで、自分の声のボリュームを制御できず、より大きな声で喘いでしまう美月。
 そして次なる狙いは下半身。
 抵抗も虚しく、スルスルとパンツとショーツを足首までずり下げられた。
「やだぁっ!み、見ないで…!見ないでぇぇ!」
 とにかく美月は制止の言葉を叫んだ。
 抵抗できず、いとも簡単に露出させられる胸と秘部の女の二点。
 それを、今、誰が見ているか、そして何人が見ているかすら分からない。
 そして上半身と同様、無数の指による責めが始まる。
 乱暴な触り方ではない。
 ソフトタッチで、ねちっこく、ただただ指先で撫で回すような刺激が、うなじ、耳、首筋、胸、腋、脇腹、太ももの内側、そして陰部を襲う。
「んはぁぁぁっ!…や、やめてぇ…あひぃぃ!」
 乳房にある指は、その膨らみを突っついて弾ませる。
 乳首にある指は、乳輪に沿うように円を描く。
 土手にある指は陰毛の毛質を確かめるように掻き分け、鼠径部にある指はそのすぐ傍にある肉の唇が緩むのを待ちわびるように股間を這い回る。
「んっ!あんっ!…やぁっ、はぁっ!んんっ!」
 脚をジタバタと打ちつけて悶絶する美月。
 視覚に加え、聴覚まで封じられたことで、美月は、神経が過敏になっていた。
 そのせいで、ソフトタッチの微弱な責めにすら大きく声が漏れてしまう。
 無数の指先による徹底した焦らし責めは、やがて、じわじわと美月の脳を溶かしていく。
(い、いやっ…!また“あの時”みたいになっちゃう…!)
 大勢の男が見ている前でイカされ、輪姦された屈辱。
 この無数の指たちは、再び美月をあの屈辱へと誘おうとしていた。

 そして、目覚める直前、気を失っていた間に、既に自分の身体に悪魔の媚薬『HMR』がカプセルに被包されて投与されていたことなど気付く筈がない美月。
 まもなくカプセルが溶け出す頃とは、当然、美月は知る由もない…。

鰹のたたき(塩) ( 2020/02/14(金) 19:16 )