君の微笑みを夢に見る
第1章「4月」
入学式の始まり
ep.3 入学式の始まり

先生にも相談せず、原稿を読み進める上枝の横でただ座っている。
実は何も考えてない。
先生たちはせかせかと動き、入学式の開始直前を示していた。


「暇だな」

「私は暇やないし」


……暇だ。
上枝が忙しいのは分かっているけど、耐えられない。
少し遊びたい気分でもある。
堅苦しいのは正直苦手だから。


「恵美加。遊ぼうよ」


少しの間が空く。
上枝はふっと息を吐くと、原稿を折りたたみ、こっちを向いた。
よし。乗った。
上枝が俺と遊ぶことを俺は確信した。


「あっち向いてほい、ならええよ」

「えー」


幼稚な遊びは嫌だ。
あっち向いてほい、なんて小学生までだと俺は思う。
少なくとも高校2年生はしないだろう。
俺の駄々を上枝は母親のような目で見ていた。


「なら……私を襲う?」


なんとも挑発的な言葉だ。
苦笑しながら上枝を見ると、目が笑っていない。
身の危険を感じた俺は無言で目を閉じ、足と腕をそれぞれ組み、俯いた。


「なんや。ノリ悪いわぁ」

「今、襲うとか不可能だろ」

「じゃあ、後で襲ってくれるんや」

「それは違う」


上枝はまた原稿を取り出した。
俺も脳内でシナリオを考えることにしよう。
遊びたくて仕方がないけど遊べないのはここでやる遊びは限界があるから、仕方のないことだ。

目を開け、舞台袖からふと体育館の中を見ると、もう在校生は座っていた。
時計も入学式二分前を示している。
心なしか外が騒がしく思えるのは新入生のせいだろう
か。
先生たちも椅子に座り、吹奏楽部も準備を終えている。

俺は考えることを止め、無為という時間を過ごすことにした。

吹奏楽部の指揮者が一度頷き、さらに指揮棒を振り上げた。
隣の上枝もその様子を観察している。


「始まんで」


上枝が呟いた。そして、俺の腕を掴んだ。
上枝の手が震えている。
柄にもなく緊張しているんだな。

吹奏楽部の演奏とともに新入生が入ってきた。
A、B、C組の順番で綺麗に列を組んでいる。
確か俺らの年は前の方の席にC組の人たち、後ろの方にA組の人たちが座っていたはずだ。
今年もそうなのかな、とどうでも良いことに思案をめぐらす。

演奏も終わり、校長の話が始まった。
これから入学式恒例のスピーチがたくさんの人から長く続く。
当然、俺も上枝もその一人。



何分経ったか分からない。
だけど、残るスピーチは俺と上枝だけとなった。
今は生徒会長と副生徒会長の話が終わり、司会が次の人の名前を呼ぼうとしている。
なんとなく最後に話すような気がする。


「続きまして、女子寮長である上枝恵美加からお話があります。2年C組、上枝恵美加、お願いします」


上枝が俺に小さく手を振って舞台へ出て行った。

ほら、最後になった。


■筆者メッセージ
更新遅れてごめんなさい。

感想待ってます
四重奏 ( 2013/12/24(火) 16:56 )