1話
神崎はあの日以来強さにこだわるようになった。武道を極めたり知識を積んだり、弱い者を徹底的に虐めるようになった。しかし、それは強くなって南那を取り戻したいと思う心が歪んで出来た行為だった。
夏休みの前日に神崎の身の回りで変化が起きた。
「これからお世話になります。島崎遥香です。よろしくお願いします。」
従姉妹の遥香が家庭の事情で夏休みの間自分の家で暮らすことが決まった。遥香は他の人には心を閉ざすが神崎にだけは兄のように慕い心を開いていた。
そして夏休みの初日…
「輝…なんか悲しそう…」
昼食の時に突然遥香はそんなことを言い出した。遥香は昔から人の心を見透かす様なことができていた。
「…お前に関係ない。」
「関係ある…だってこれから夏休み一緒に過ごすんだから。」
「言う気はない。知ったところでお前には何もできない。」
神崎は冷たく返すと遥香は神崎の隣に座り抱き付く。
「おいっ!なんだよ!」
「苦しまないで…輝が辛いなら、私も一緒に苦しむから…」
神崎の壊れきった心に注がれた優しさに涙を流しあの日の出来事を話す。
「そっか…」
「話聞いてくれてありがと…なんか楽になったわ。」
「これからどうするかとか決めてるの?」
「いや、どうやったら南那を取り返せるかも分からねぇ。」
「そんなの簡単だよ。」
神崎は今までずっと悩んでいたことを遥香は一言で一蹴した。
「同じことをすればいいんだよ。目には目を歯には歯をって言うでしょ?」
「そりゃそうだけど…俺はアイツと違って女との経験がねぇんだ…。」
「なら、経験を積めばいいじゃん。」
神崎は遥香の無理な話に呆れていた。
「そんなの無理に決まってんだろ?どこに私怨のために経験積ませてくれる女がいるんだよ。」
神崎の言ったことは正論だった。しかし…
「ここに居るよ〜?」
と、 遥香は笑顔で自分を指差した。
「…気持ちは嬉しいけど遥香がそんなことしなくてもいいよ。」
「南那さん取り戻せなくていいの?」
遥香は真剣な表情で喋る。
「私言ったよね?私も苦しむって。輝の辛そうな顔…見たくないの…。」
遥香の真っ直ぐな瞳が自分が本気だと言っていた。
「分かった。ならよろしく頼むよ。」
こうして神崎の特訓の日々が始まった。