3話
神崎の襲撃失敗から数日後、翔たちは新しい作戦を実行に移そうとしていた。
「皆さん、これがカッコ悪いことだと言うのは分かっています。ですが、皆さんが本当に彼女を愛しているならこれが最善の方法なんです。異論は有りますか?」
翔の作戦に反対するものはいなかった。雰囲気などではなく、全員がそれに心から賛成していた。
「それでは皆さん今日の放課後に実行してください。結果は僕に報告して下さい。」
そう言うと翔のグループは各々動き出す。
「翔、俺も行くわ。」
「頑張って下さい、和先輩…。」
そして二人も動き出す。
陽が沈みかけている時間に一人の女性が帰路についていた。そこに男性が走りながらその女性の名前を呼ぶ。
「奈和ー!!」
奈和は名前を呼ばれて反射的に振り返ると驚いた表情のあとに嫌そうな顔をする。
「うるさい!人の名前を大声で呼ぶな!」
「す、すまん…。」
「で、なに?今更なんか用?」
「ああ、話したいことがある。」
少しの沈黙のあとに覚悟を決めて喋る。
「俺ともう一度俺と付き合ってくれ!」
翔の作戦とは元彼との恋心を思い出させ正気にするというものだった。しかし奈和は冷たい目線を浴びせる。
「呆れた…。前にも言ったけどあんたじゃ私を満足させてくれないの。あんたといてもつまらないし。もう分かったでしょ?消えてくれない?」
そう言うと奈和は元カレに背を向けて帰ろうとする。しかし和は食い下がらない。
「待ってくれ。お前は性行為以外じゃあ満足できないのか?」
「どういう意味?」
奈和はまた元カレの方を向く。
「俺達が一緒にいた時間は満足じゃなかったのか?幸せじゃなかったのか?一緒に遊んだり映画見たり買い物したりしたあの時間は不満だったのか!?」
奈和の表情が曇る。和は畳み掛けるように言葉を繋げる。
「愛は体の関係だけじゃない!一緒にいて幸せだと思う人と楽しく過ごすことだと思う。俺はお前といた時間は幸せだった!またお前と楽しく過ごしたい!」
「和くん!!」
奈和は涙を流しながら和の胸に顔を埋める。
「私…間違ってた!…目の前の欲望に目が眩んで本当に大切な物を見失ってた!またあなたの傍にいていい?」
「もちろんだよ!奈和…愛してる。」
「私も…」
そして和は翔に結果を伝える。
『翔、こっちは成功したよ。ありがとう。お前の方はどうだ?』
「和先輩良かったですね!僕も今から頑張ります!」
『おう!頑張れよ!!』
翔は電話を切ると目の前にいる由依と目を合わせる。
「で、なんなん?今日は塾あるから急いでんねんけど。」
「ごめんね由依ちゃん。でも話がしたいんだ。」
「今更なんやねん。」
「僕は由依ちゃんのことが好きなんだ!だから僕と…」
「なーにやってんのぉ?」
後ろから冷たい声がする。言葉は普通なのにそれを聞くと怖じ気づきそうになる。
「か、神崎…」
「ビービーリーくーん。それはちょっと無理があると思うぜ?」
さっきとは違い普通の口調で喋る。
「それはどうかな?少なくとも他の女の子たちは無理じゃなかったらしいよ?」
「な、なんだと!?」
神崎は慌てて何人かに電話をするが誰も電話に出ない。
「くそっ!アイツら!!」
「由依ちゃん、君を連れ戻しに来たんだ。君もこっちにおいでよ。」
翔は由依に手を差し出す。しかし…
「余計なお世話や!」
そう言い翔の手を叩きそのまま逃げるようにその場を立ち去る。
「ふふふ…由依ちゃんもこっちに来るのも時間の問題だね。それならさ、いっそ皆に謝ったら?僕がその場を用意するよ。」
「お前の情けはいらねぇ。最後に勝つのは俺だぁ!」
神崎は強く翔を睨み付けるとその場から去っていった。
「ここまでよく追い詰めたね。」
すると後ろから声がした。
「遥香さん…」
「また会えたね。」
その声の主は遥香だった。遥香はゆっくりと翔に近付く。その表情は依然として無だった。
「あの時はありがとうございました。もう少しで自分を見失うところでした。」
「それに気付いたのはあなた。私はなにもしてない。」
「そんなこと…」
「それよりこれからどうするの?」
「由依ちゃんを救ったあとに神崎にトドメを差します。アイツだけは許せない!」
翔はあの日のことを思い出して握り拳を作る。
「そう…。でもその前に私の話を聞いてくれる?」
「いいですけど…なんの話ですか?」
「彼の過去の話…。どうして彼があんなことしてるか知りたくない?」
「ど、どうしてそんなこと知ってるんですか!?昔から知り合いの僕でも知らないのに!あなたはいったい…?」
「聞くの?聞かないの?どっち?」
翔は聞きたいことは山々だったが遥香の話を聞くことにした。
「聞かせて下さい。なぜアイツがあんなヤツになったのかを…。」
「いいわ…あれは彼が中一の時の話よ…」