6章
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ちゃっかり一晩、七瀬の実家に泊まった慶治は次の日、一人で東京へ帰ると言った。

「慶治くん、もっとゆっくりしていってもええんよ?」

 七瀬の母は残念そうにそう言ったが、2DKのアパートに何日も他人を泊められるわけがない。

「また来てね。待ってるからね」

「ありがとうございます」

 名残惜しそうに手を振り、母は職場へ向かって行く。年末年始を実家で迎えると決めていた七瀬は、バスで慶治を駅まで送った。

「東京に戻ったら、俺も一度実家に帰るよ」

「え?」

 ひと気のないホームで本数の少ない電車を待ちながら、七瀬はけどの顔を見た。

「ちゃんと親父と話し合ってみようと思う」

 慶治は小さく笑うと白い息を吐いて空を見上げた。

 今日の空も青空だった。慶治の隣に並んで七瀬も同じ空を見た。

 だけど今日の空は少し切なく感じる。

 新しい一歩を踏み出そうとしている慶治。そんな彼のことを応援してあげたいはずなのに七瀬の胸の内はざわめいていた。

 慶治はきっと行ってしまう。ずっと好きだった彼女のところへ。

――奈々未姉のところへは行かないで!――

 いつか聞いた万理華の言葉がなぜだか今頃になって頭に浮かんだ。



「じゃ、またな」

 そう言ってやって来た電車に乗り込む慶治の背中を七瀬は見送った。

(なんでやろ。なんで、こんなに寂しいんやろ)

 やがて慶治を乗せた電車が七瀬の前から静かに走り去った。



鶉親方 ( 2017/12/21(木) 03:30 )