01
「何処行くの?」
「桜でも見に行こうと思ってな」
少年が走らせる自転車の後ろに乗っている少女は思わず頬を緩ませて笑った。
「桜って・・・まだ二月だよ」
「誰も花をとは言ってないだろ」
楽しそうに笑う少女に少年は眉をひそめた。
「桜はあるだろ?」
ぶっきら棒に問う少年に少女が今度は呆れたように微笑んだ。自転車はビルの建ち並ぶ街を越え、夕陽に照らされる住宅街をも越えて行く。立春が過ぎたとはいえ、まだまだ春は遠く凍えるように寒い。
二人とも厚着だが自転車が走ると、そよ風とは言いがたい冷風に晒されてしまう。白い息を吐きながら身を震わせ、少年は少年の背に寒さを紛らわすように強く抱きついた。
「具合。やっぱ悪いか?」
少年の問いに少女は抱きついた背へ頭を擦り付ける様に首を横に振る。
「大丈夫。ちょっと寒いだけだから」
背を向けているため、震えている少女を感じることしか出来ない少年だが、大丈夫だと思うことにした。大丈夫だと思いたかった。
少女は重い病気であった。本当はこんなこと出来ないはずだった。厚着は上だけで素足にスリッパ。少年が家から持ってきたダウンジャケットを強引に着せ、病院から抜け出してきた。
「でも、久しぶりだなぁ」
少女が呟く。
「昔っからこうやって、自転車の後ろに乗せてくれてさー」
男が昔のことを思い出し、懐かしそうに微笑む。
「色々な所に私を連れてってくれたよね」
遠い日の思い出が淡々と思い起こされていく。