春風と珈琲と
02 2話
 先生との出会いは今から2年前に遡る。俺が高校1年の2学期に教育実習で来たのが始まりだった。

 一目見て古い表現かも知れないが雷に打たれたような衝撃を受けた。周りの女子たちがまるで子供に見えるほどの美しさの持ち主で一瞬にして恋に落ちてしまった。偶然、俺達のクラスが教育実習の場に選ばれたのだが、その事を神に感謝したくなるほどに嬉しかったのを今でもよく覚えている。

 実習が終わるまでの2週間は夢のような時間で、毎日が楽しく瞬く間に過ぎていった。しかし、日が進むにつれて俺の中で膨らんでいく気持ちを抑えるのに、毎日狂いそうになる感情を持て余していた。

 そして、教育実習最終日。深川先生が教卓の前で最後の挨拶をしている中、俺はこの気持ちを伝えるべきかを真剣に悩んでいたが、そんな俺の周りは鼻をすする女子生徒達、しんみりとした表情をして俯き加減の男子生徒達。いつもと変わらない優しい眼差しで見守る担任。まるで通夜の席にいるような静けさをもった教室内でも気丈に話をしている深川先生。そんな先生の目に浮かんでいる涙を見た時、俺は気持ちを伝えようと決心した。

 全ての挨拶が終わり、教室から出て行った先生の後を追ったが、所詮は子供。呼び止めたはいいが先生を前にした俺は言いたい事も言えず、ただ黙っている事しか出来なった。


「元気でね。雪村くん」

 そんな不甲斐ない俺に優しく微笑んでくれた先生の頬を伝っていく涙を俺は一生忘れる事は出来ないだろう。そして、俺の名前を覚えていてくれた嬉しさ。そんな事しか考えていない俺とは裏腹に、先生は涙を拭いながら俺の顔を覗き込んだ。

「ちゃんと勉強しないと駄目だよ。雪村くんはーー」

 なんて、俺の勉強に対するアドバイスをくれた。たった2週間だけだったけど、俺の苦手な部分や得意なものなどをちゃんと把握してくれていた深川先生。対して俺はただもっと先生と一緒にいたいと思う一心で何を伝えようとしたのだろうか。

 16の"ガキ"と22の"オトナ"。
超えられない壁を感じた瞬間だった。


■筆者メッセージ
とりあえずは1日1話を目指したいです。
鶉親方 ( 2017/08/09(水) 22:32 )