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高2の1学期の最終日―――
俺達が付き合い始めて、もう2ヶ月。未だに手も繋いでない俺達を周りの奴らは冷やかしていた。
教室に残っているのは数人の生徒たち。明日からは待望の夏休みで早々に帰り支度をして帰る者、のんびりと友達と話している者、部活に精を出している者など様々だ。
そんな中、俺はと言うと―――
「んで、いい加減ちっとは進展したのか? 誠」
「ん〜、いや・・・・・・特にはなにも。ってか痛ぇなさっきから」
俺は最も掴まりたくない奴に掴まりベランダで質問攻めにあっていた。煮え切らない俺の背中を容赦なく叩いているのは、中学からの友達の一馬。
そこそこ男前なのだが、思考回路のぶっ飛んだ顔で俺の方を見てニタニタと笑っている。
(楽しんでんな・・・・・・この野郎)
どうせ、色々と聞き出して学校中に広めようって魂胆だろうが、明日から夏休みだからそれは無理だろう。
「しっかしよ、お前があの娘と付き合うとは思ってもなかったぞ」
一馬はペットボトルの飲料水を口にし言った。
「そりゃ、こっちの台詞だ。俺だって未だによ・・・・・・」
俺も飲み物を飲もうと蓋を開けようとすると。
「未だに何?」
「おわっ!」
教室の窓枠にも座っていた俺達は突然、背後から聞こえてきた声に驚いてバランスを崩した。
「何が未だになのかなぁ〜、誠くん」
振り返った俺達の目の前に悪戯っ子のような笑みを浮かべて立っているのは、今まさに話題に上っていた当の本人。
入学当初から男子生徒のハートを捕らえかなりの告白を受けるも全て断ったというウワサを持っている女子生徒。
「あ、飛鳥ちゃん」」
「もぉ〜。・・・・・・また、ちゃん付け! いつも言ってるでしょ、飛鳥でいいって」
腰に手を当て、いかにも怒ってますよと言わんばかりのポーズで立っている飛鳥ちゃん。しかし、その顔は言葉とは裏腹にどことなく楽しそうに笑っていた。
「いや、えっと・・・・・・ごめん」
「むぅ〜。もういいよ。それよりまだ帰ってなかったの?」
今度は首を傾げて不思議そうに僕を見ている飛鳥ちゃんはキョロキョロと辺りを覗っている。
教室にいるのは人数は減ったものの暇そうなクラスメイトが数人。俺達もその連中に含まれている訳だが・・・・・・
「そりゃ、こいつが飛鳥嬢を待っていたからだな」
「ちょっ、一馬! 余計なこと・・・・・・」
「そうなんだぁ・・・・・・嬉しいな。それと居たんだね、一馬くんも」
「それはちと酷いぞ、齋藤飛鳥」
「フルネームで呼ばないで! 恥ずかしい。ねぇ、誠くん」
ちょっと顔を赤らめ嬉しそうな顔で俺を見ている飛鳥ちゃんとその死角で必死に笑いを堪えている一馬の顔が目に入ってきた。
(俺で遊んで楽しんでやがるな一馬の奴。・・・・・・それにしても、相変わらずお似合いの2人だな)
(未だに信じられないんだよな。彼女と付き合っている事を。どう見たって付き合ってるって言うと、この2人だしな)
たまに俺はただのおまけじゃないかと思う時がある。
「ちょっとだけ待ってくれる? もう少しで用事が終わるから」
「あぁ、分かった」
「ごめんね。直ぐ終わるから」
申し訳なさそうに手を合わせている飛鳥ちゃんは少しおどけた表情で手を振りながら教室を出て行った。
「ラブラブかっ!」
「痛っ! 何すんだよ!」
ペットボトルで頭を殴りにきた一馬に応戦し、俺も殴り返す。
(この暑い時に・・・・・・汗かいちまうだろうが)
毒づきながらもお互い笑いながらペットボトルを動かしていた。
「あ〜あ、行っちゃった。寂しいですなぁ。まこちゃんよぉ」
「あのなぁ」
間の抜けた声を上げる一馬を他所に俺は空を眺めていた。大きな入道雲が目に飛び込んできて、いやでも夏だと感じる鳴き声が合唱しながら響いていた。
「それにしても・・・・・・今日の齋藤はやけに元気だったな」
「んっ?」
ぼんやりと空を見ていた俺は一馬の方を向いた。
(そう言われれば、いつもより元気な感じだったな・・・・・・何かあったのか?)
どちらかと言うと、物静かなタイプの飛鳥ちゃんが特別元気な気がしたのはいつもより喋ってるからだろうか。
「ま、あれくらい元気な方がいいだろ。明日からは楽しい楽しい夏休みだ! 頑張れよ、青少年っ」
「なっ! 何言ってんだよっ!」
「おいおい、それを言わせる気か?」
いやらしい笑みを浮かべ、一馬がまたポコポコと殴ってきた。
それからもくだらない話をして暇を潰し、そろそろかと思った頃。
「それよりさ、これからどっか行かね?」
「どこに行くんだよ? それにまだ」
「お待たせっ」
なんともタイムリーな登場をした飛鳥ちゃんの肩は少し上下していた。
(走って来てくれたのか・・・・・・急がなくてもよかったのに)
「おっし、揃ったな! 行くぞ、青少年っ! と、その彼女B」
一馬はそう言うと、窓枠から降りて鞄を手に教室のドアへと向かった。
「青少年言うなっ」
「えっ? 何? Bって?」
戸惑う飛鳥ちゃんは一馬を追う俺の後に続いた。
「心配するなよ飛鳥嬢! 無論Aは俺だっ!」
「気持ち悪ぃ事言うなっ!」
状況を把握していない飛鳥ちゃんの頭には?マークが浮かんでいるみたいだった。
(何が彼女Aだ。そんな趣味は無いっつうの!)
笑いながら一馬が廊下を進む。
(ったく・・・・・・)
いつもながら、突拍子も無い行動をする友人に振り回されるが、実は嫌いでも無かったりする。
そんなこんなで、かなり強引な一馬に連れられて俺達は学校を後にした。