05
三年前のあの日。父さんと義母さん、そして史緒里は遊園地へと遊びに行った。僕は新人研修と重なり、一緒に行けなくて史緒里は心底残念そうな顔をしていたのを今でも覚えている。
そして、遊園地に行く途中、3人を乗せた車は事故に遭った。
車の前半分は原形を残す事なく大破し、二人は即死だったが、後部座席の史緒里は奇跡的に無事だった。外傷もほとんどなく一見無傷のように見えたが史緒里は言葉を失っていた。
それは義父と母を目の前で亡くしたショックによるもので、こればかりは医師からもどうする事も出来ないと言われた。
僕には何もしてやれなかった。苦しんでいる史緒里にどんな言葉を掛けてやればいいのかも解らない無力な自分に激しい怒りを覚えた。同時に史緒里を特別な存在のように感じている自分にも気付いた。
この感情を無くした人形のような史緒里に笑顔を取り戻せるのは自分だけだ。そう心に誓って今日までやってきた。最近になってようやく史緒里に感情は戻ってくれた。けどまだ、言葉は戻ってきてはくれない。まだ、何かが足りないのだろう。
日曜日。天候は雲一つない快晴。
「さて、次は何に乗る?」
パンフレットを見ながら聞く僕に史緒里は元気よく指さしていく。
「よし。じゃ、行こっか」
嬉しそうに前を走り出した史緒里が振り返って僕に手招きをする。その顔から笑顔が消える事はない。とても楽しそうに走って行く史緒里を見ながら、僕もその後を付いて走った。
約束通り遊園地に遊びに来ている。史緒里は起きた時からとてもテンションが高く、さすがの僕も一瞬戸惑ってしまうほどだった。そんな史緒里と一緒に来る遊園地は本当に久しぶりで、何をするのも楽しかった。
その後、史緒里と一緒に色んなアトラクションを楽しんだ。終始、笑顔の史緒里を見てると僕の心は言いようもない気持ちで溢れてくる。
今、この時を大切にしたい。この時間がいつまでも続いて欲しい。史緒里の笑顔をもっと見ていたい。
今、この瞬間だけは史緒里を妹ではなく、一人の女性として、その思い出を胸に刻みたかった。
楽しい時間と言うのは過ぎるのがとても早い。
もう時刻は赤焼けの空が広がる夕刻となっていた。朝からほとんど休みなく遊んでいたせいか、さすがの僕も疲れを感じていた。
「史緒里、もう帰るか?」
静かに首を横に振る史緒里は、躊躇いがちに僕の手を取ると歩き出した。突然の事で驚いている僕をよそに、史緒里は少し恥ずかしそうな笑みを浮かべ先を急いだ。
史緒里の手の温もり。優しい温もり。繋がれた場所から伝わってくる史緒里の体温、鼓動。全てが僕の身体に広がっていく。
愛しい。
史緒里の全てが愛しくて仕方がない。