04
晩御飯の後、リビングでテレビを見ている僕の元へ史緒里がやってきた。僕の前に立ち、後ろで手を組んでいる史緒里は何か悩みでもあるのか表情が冴えない。
「どうした?」
躊躇いがちに僕の横に座ると、テーブルの上に一冊の本を差し出した。
「ん?」
徐に頁を開いていく史緒里がある頁で手を止めて指さした。
そこには、流行の遊園地を特集した記事が載っていた。
「行きたいのか?」
どこか不安げな顔をした史緒里は戸惑いながらも頷いた。どことなく遠慮しているようにも見えるが、何を遠慮しているのか分からない。でも、その瞳には一抹の不安と期待が見え隠れしているようだった。
「いいよ」
そう答える僕を見て、表情を崩して笑顔になる。
本当に行きたかったのだな、と言う気持ちが伝わってきて、なんだが僕まで嬉しくなってきた。
「それで、どこの遊園地に行きたいの?」
そう聞く僕の声に少し表情を曇らせて頁のとある場所に指を動かしていった。
史緒里の指が止まったのは近くの遊園地。でも、そこは僕達にとって一番辛い場所。
「ここに・・・行きたいのか?」
ただ一度だけ頷き、そのまま俯いてしまった史緒里。
史緒里は覚えているはずだ。その場所が辛い思い出の場所だって事を知っている。
なのに、何故その場所に行こうとするのか。史緒里の思いは見えない。
「よし、わかった。今度の日曜日に行こうか」
それでも、史緒里が行きたいと言うのなら僕はそれを断る事は出来ない。
驚いた様子で顔を上げて僕を見ている史緒里だが、次第に笑顔となり頷き、嬉しそうに雑誌を持つと自分の部屋へと戻って行った。
そんな史緒里を見送り、僕はテレビをぼんやりと眺めた。史緒里が選んだ遊園地。それは辛い思い出がある遊園地。
父さんと義母さんを失った場所だ。