02
リビングに入ると史緒里がテーブルに着いてカフェオレを飲んでいた。僕の姿に気付いたようで、にこりと笑みを浮かべて席に着くように促してくる。
もちろん、喋れないのでその表情や仕草で想いを読み取る。そのテーブルにはすでに二人分の朝食が用意されていて、美味しそうな湯気をあげていた。
「史緒里が作ったの?」
恥ずかしそうに頬を染めて俯く史緒里はカップを手に落ち着きがない。普段は料理をしないので自信がないのだろう。と、言ってもテーブルに並んでいるのはトーストとハムエッグ、それにコーヒー。特別難しいものは並んでいない。
「いただきます」
僕達の朝食。僕と史緒里の二人きり。これがいつもの朝の光景。ゆっくりと食べる史緒里を見ながら、僕もトーストを口に運ぶ。
史緒里は寂しく思っているだろうか。
今のこの状況をどう思ってるのだろうか。
僕らは本当の兄妹ではない。
朝食を食べ終え、僕は職場へ、史緒里は高校へと向かった。通学路を歩く史緒里は僕の隣でとても楽しそうだ。
史緒里は表情がとても豊かだ。あの日、言葉を失ってから史緒里は表情で会話するようになった。
笑って、怒って、拗ねて、喜んで。
でも、あの日から一度たりとも泣いてはいない。