01 Monday 〜夕暮れの河川敷〜
ここ最近、夜になるとどこからか不安定で下っ手クソなメロディーが聞こえてくるようになった。
ある月曜の夕方。意味もなくぶらりと散歩というものを久しぶりにしてみた。夕焼けの色が、仕事とはいえ一日中パソコン漬けになっていた目にじんわりと優しく染み渡る。
河川敷をぼんやりと歩いていると、前方からものすごいスピードで走ってくる女を視界にとらえた。やや前のめりになり、黒髪を振り乱し、一心不乱に走ってくる様はまるで猪みたいだった。
びゅん!と一瞬の風が生まれた。女は俺の横を通り過ぎたらしい。その直後『ぐえっ』とカエルの鳴き声のような声と何かが倒れた音がした。
恐る恐る女の走り去っていった方向へ振り返ってみると、盛大にすっ転んだ後のようだった。地面にうつ伏せに倒れこんでいる女のスカートは破れ、下着が丸見えだった。
(淡いピンクか・・・)
思わず呑気にその光景を眺めてしまう自分に喝を入れた。
違う違う、ここは紳士らしく『大丈夫ですか、怪我はないですか?』と倒れた彼女を気遣いつつ、そっと起こしてあげるべき場面だろう。中高生みたいに『オッシャー、儲け!』などと心の中でガッツポーズをとっていい場面ではない。
「あの、だいーーー」
「ああっ、もう! 鬱陶しい!」
紳士気取りの俺が声をかける前に、女は自力で華麗に立ち上がり、泥がついたヒールを脱ぐと思い切り川に向かって投げ捨てた。伸ばしかけた右手が虚しく宙を彷徨う。
「ばっかやろー!」
今時、ベタな青春ドラマでもなかなか拝めないくさい台詞を叫びながら、ボロボロになったリクルートスーツを華麗に着こなしている彼女は裸足で駆け出していった。チラチラと下着を見せつけながら。
「・・・・・・そういや、最近まともに大声で叫んでないかもな」
そう思うと、ボロボロになりながら走って転んで立ち上がって恥ずかしげもなく大声を出していた彼女がとてもかっこよく感じられた。俺もあんな風にがむしゃらに生きてみたいものだ。
世の中、まだまだ捨てたもんじゃないなと夕日を見て黄昏ていた俺の数メートル先で、女が再び盛大にすっ転んでいたがあえてそれは見ないフリをした。