TAKE1
come back



「もしもし?親父?俺だけど」
「久しぶりだな。ドイツの生活はどうだ?」
二年ぶりの父親の声、あのころからはだいぶ明るい声に戻っていた。
「だいぶ慣れたよ。みんないい人だしね。」
「それならよかった。ところでどうした?いきなり電話してくるなんて」
「4月になったら日本に帰国しようと思う。」
「そうか。どうするんだ?名古屋のかあさんのところか東京の俺のところどっちにするんだ?」
現在ドイツのドルトムントにサッカー留学中の俺は出国直前に両親の離婚を伝えられた。
帰国するとき自分の意志でどちらに帰るか決めろと言われていた。
姉と妹は母のほうにいる。その連絡は去年父から電話で聞いた。
そして現在父は再婚をして相手の連れ子二人と四人で暮らしている。
お互いに新しい生活のスタートを始めている。その中に割って入る申し訳なさは感じていたが
あくまで日本に戻るといっても高校を卒業したら再びドイツに戻ろうとは思っていた。
新しくできる兄弟とは最低限仲良くなれば問題はない。短い付き合いなのだからと達観していた。
「俺は親父のほうに行こうと思ってる。」
「いいのか?名古屋には前の仲間もいるだろ・・」
「いいんだ。あっちになんの未練もないし母さんも俺に帰ってきてほしくないと思うし」
仕事で多忙を極めていた父が家にいない時によく感じていたことがあった。自分は
姉や妹に比べると愛情の注がれ方があきらかに劣っていると小さいころからわかっていた。
理由は知らないがかわいげない俺には愛想を早々とつかしたんだと。
「わかった。みんなには俺が伝えておく。いつ帰国予定だ?」
「明後日には日本に着く予定だから」
「着いたら空港まで迎えにいこう」
「ありがとう。じゃぁまた連絡するわ」
電話をきると一通のLINEを受信した。
相手は中学時代のクラスメイトでありチームメイトであり大親友
「日本に帰国するみたいだね。桜花にくるんでしょ?また一緒にプレーできるの楽しみにしてるよ。」
普段クールな彼がたまにこのようなLINEを送ってくる。
らしくねぇなと思いつつも口元が緩む
「さて、帰国の準備だ。」
日本に帰国した後待ち受ける激動の二年間が始まろうとしていた。



シベリアス ( 2018/04/26(木) 00:47 )