5章
29話
昼休み、僕が教室で京介と一緒に昼食をとっていると、土生が僕の前までやってきた。クラスの視線が僕と土生に集まる。土生が何の用があって、僕の所までやってきたかは、大方の予想は立っていた。

「あのさ湊。聞きたいことがあるんだけど?」

彼女の表情にいつもの笑顔はない。

「どうしたの瑞穂?表情が怖いけど」

「湊、噂で聞いたんだけど1年の小坂菜緒と付き合い出したって、本当?」

やはり、僕の予想は的中していた。今日の朝、彼女登校してきたことで噂が広がったのだろう。クラスでも廊下でも遠巻きに噂されているような気はしていたが、こうも情報が広がるのは、早いものなのかと僕は少し関心すらしていた。

「湊!黙ってないで答えてよ!」

彼女の声が教室に響く。クラスメイトの視線がより一層集まる。

「事実だよ」

教室が少しざわついた。まぁたしかにそれもしかたないのだろう。体育祭での白石先輩のことや、土生のことがあり、どちらかと付き合っているという噂が流れ、白石先輩のファンからも土生のファンからも白い目で見られることも少なくなかった。

そしてその土生が僕を問い詰めているのだ。いわゆる修羅場というものを目の当たりにしていると勘違いしているクラスメイトは好奇心で僕たちに視線を向けている。そんな中で、僕が事実だと言った直後、ねるが黙って教室を出て行ったのが視界に入ったいた。

「あんたね!」

「まぁまぁ土生落ち着こうぜ」

京介が間に入って止めようとする。

「影山君は関係ないでしょ。私は今、湊と話をしているの」

「でもさ・・・」

「いいよ京介。止めなくて」

「わかった・・・」

京介は自分の席に腰を下ろした。

「俺は、菜緒と付き合ってる、べつに問題ないだろ。べつに土生と付き合ってるわけでもないのに、なんで瑞穂が怒るわけ?」

「それは・・・」

僕の発言にまた少しざわつく教室。だが僕はわかっていた。瑞穂が僕になぜ怒っているか。べつに瑞穂が僕のことが好きだからじゃない。瑞穂は何よりも友達を、長濱を大事に想っていることを知っているからだ。

ここからは、僕の推測でしかないが、瑞穂はねるから僕とねるの間に起きたことあらましを聞いているだろう。そしてねるを振り、僕が飛鳥をどれだけ想っているかということも。だからねるは僕のこと諦めてくれた。なのに飛鳥ではない彼女と僕は付き合い出した。そして、そのことを知ったねるは、僕に嘘つかれたと思い心を痛め、傷ついた。
だから土生は僕の前にやってきて、事の真相を確かめようとしたのだろう。

「瑞穂、おまえこんな所にいていいのか?」

僕は隣にいる京介以外のクラスメイトには聞こえない声で話した。

「あいつさっき教室でてったけど」

僕は彼女の右手で頬を叩かれた。彼女の目には薄っすらと涙も浮かんでいた。

「サイテー!誰のせいであの子が傷ついたと思ってるの!」

僕は何も返すことが、できなかった。瑞穂は僕の前から立ち去り教室を後にした。たぶんねるを探しに行ったのだろう。クラスメイトの視線は僕に集まる。まぁ当然の結果だろう。

「大丈夫か湊?」

「うん、大丈夫。ちょっとおれ飲み物買ってくるわ」

「そっか。じゃあおれも行くよ」

「ごめん。1人させてくれ」

クラスメイトの視線を集めながら僕は教室をで、自動販売機に向かった。自動販売機で紙パックのジュースを一つ買い横にあるベンチに腰をかけた。

「これで、よかったんだよな」

僕の小さな呟きは、誰もいない校舎の中で人知れず消えて行った。



■筆者メッセージ
本日の更新はここまでです。
ゲンマインさん拍手メッセージありがとうございます。とても励みになります。更新頻度が少し下がっていますができるだけ頑張って執筆いたしますのでこれからもよろしくお願いします。
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アゲハ ( 2019/02/07(木) 00:43 )