3章
18話
現在、グランドでは綱引きが終わり、次の種目の借り物競争が行われようとしている。昨年の借り物競争であんなことがあり、借り物競争には悪い記憶しかない。そんなことを考えている僕をよそに、借り物競争が始まろうとしている。僕の近くを通った1年生と思われる女子の会話が耳に飛び込んでくる。

「ねぇ蘭世知ってる?昨年の借り物競争の話」

「なにそれ?教えてよみり愛!」

「実は昨年の借り物競争で、成瀬先輩が齋藤先輩に告白したらしいよ!」

「ええ!?そうなの!なんか良いねそういうの」

「でしょ!!」

2人の女子は徐々に離れていき、次第に話し声は、他の生徒の声にかき消されていった。

飛鳥は昨年の借り物競争で成瀬に告白された。成瀬が引いたお題には〔好きな人〕と書かれており、飛鳥の手を引っ張りゴールに向かい。ゴールしたと同時に成瀬は全校生徒の前で飛鳥に告白した。そして飛鳥は、目に少し涙を浮かべながら小さく頷き、あの二人の交際は始まった。

あの時の自分はただ立ち尽くすだけで何もすることができなかった。そんな情けない自分を思い出してしまう借り物競争は苦い記憶だ。

そんなこと思い出していると、いつのまにか借り物競争は始まっていた。周りを見渡すと男子も女子も借り物競争を夢中になってみている。その理由が気になり、グランドに目をやると、成瀬とあの白石先輩が出場していた。女子人気1位の男と男子人気1位の女子が出ているのではしかたない光景だろう。

そんな中、会場に黄色い歓声が起こる。成瀬がお題のカードを引き、飛鳥の元に向かい、手を握りゴールを目指して走り出していた。昨年も目にした見たくもない光景をなぜ今年も見なければならないのか。グランドから視線を外し、その場を離れようと思った。

しかし、そのとき野太い歓声が上がる。外した視線を元に戻すと白石先輩がお題のカードを引き、辺りを見渡してた。一瞬白石先輩と目が合ったような気がした。だが気のせいだろうと思った瞬間、何故か白石先輩はこちらに向かって走って来ていた。そして僕の前で立ち止まり腕をつかまれた。

「海崎君やっと見つけた!」

「ちょっと!?白石先輩!?」

「いいからついてきて!!」

白石先輩に腕を引かれながら走り出した。こんなこと前もあったような気がするなどと考えていられたのもつかの間、白石先輩のファンの男子の鬼のような形相に気が付き、今自分がどんな最悪で最高な状況であるかということ悟った。そして白石先輩と一緒にゴールした。

「白石先輩、お題なんだったんですか?べつにおれじゃなくても…」

息を切らしながら白石先輩に尋ねた。

「いや、海崎君じゃなきゃダメだったの」

「お題なんだったんですか?」

「ひ・み・つ」

僕の方に振り返り小悪魔のように微笑む白石先輩に思わず見惚れてしまった。その後クラスの待機場所に戻ると、今度は正座をさせられ、本日二回目の尋問が開催されたのは言うまでもなかった。



■筆者メッセージ
本日2回目の更新です。これからもよろしくお願いします。

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アゲハ ( 2019/01/19(土) 22:17 )