10話
昼休み、じゃんけんで京介と仲島と佐々木に負け、ジュースを奢ることになってしまった。仲島と佐々木とは遠足以来仲良くなり、最近は一緒にいることが多くなった。
1人で自動販売機がある1階にむかって歩いていると、角を曲がったところで反対側から走ってきた人にぶつかってしまった。
「すみません、大丈夫ですか?」
「こっちこそごめんね?大丈夫?」
ぶつかった人を見ると、それはあの白石先輩だった。
「え!?白石先輩!?」
「そうだけど、君は?」
「か、海崎湊です。先輩ケガはないですか?」
「うん、大丈夫。海崎君は?」
「大丈夫です」
すると白石先輩が走ってきた方向から走ってくる足音が聞こえてきた。
「やばい、こっちきて!」
白石先輩は、手をつかんで走り出した。
「ちょっと、先輩!?」
「いいからとりあえず走って」
白石先輩に手を引かれながら走った。
「ここまでくれば大丈夫かな、あっごめん」
つかんでいた手を離した。少し残念な気持ちになったのは置いておこう。
「大丈夫です。でも急にどうしたんですか?」
「いや、ちょっとファンから逃げてて」
「えっ?」
「休み時間に、毎日毎日話に来てくれて、嬉しいんだけど、たまには一人の時間も欲しいなと思って、逃げてみちゃった」
「そうなんですね、先輩も大変なんですね」
「まぁ少しね、あっでもこのことはみんなに内緒しといてね?」
「わかりました」
「絶対だよ!指切りね」
白石先輩と指切りをして約束をした。
「じゃあまたね海崎君!」
白石先輩は笑顔で手を振って、その場を去っていった。横目で見ていた人だかりの中心のいた人物と交流をしたことが、現実として受け止めきれず、少しその場に立ち尽くしていた。するとスマホが鳴り、現実へと引き戻された。スマホの画面を見ると京介からLINEが来ていた。
【どこまでいってんだ!はやくジュース買ってこい!】
「やべ!そういえばそうだった!」
急いでジュースを買いに行き、教室へと戻った。今日の出来事で、白石先輩のファンになる気持ちが少しわかったような気がした。